Prologue 食の荒野に生まれ落ちて
私は魔界のお弁当屋さん
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ろう。
「ごめんなさい。 50セネカコインが切れてまして……」
「あぁ、気にしない。 キシリアちゃんのところの弁当を買えるだけでもラッキーなんだし」
申し訳なさそうに頭を下げるキシリアにむかって笑いながら小銭を受け取ると、若者は満面の笑みを浮かべたまま、手にした弁当を文字通り抱え込んで帰ってゆく。
……さもないと、弁当を買えそうもない連中に横から掻っ攫われかねないのだ。
その競争率たるや、学食のヤキソバパンですら凌駕しかねない勢いである。
実際、この弁当が発売された直後はそんなトラブルが頻発していた。
なので、キシリアはこの弁当のファンに街の警備員が多数含まれていたことから一計を案じ、優先的に弁当を販売する代わりに、この昼前の時間帯だけそんな不埒な真似をする輩が出ないか見張りをたててもらうことにしたのである。
そして先ほどの若者は、今日の弁当争奪戦を監視する街の衛兵の一人だった。
ただ……もし、この弁当を人間が食べたなら、一口で目を剥いて吐き出すかもしれない。
なぜならこのゴブリン弁当、人間が食べるとかなり乳臭い上に胸焼けがするほど脂っこい味に仕上がっているという、完全な失敗作だからだ。
ちなみにこの弁当の中身はカニクリームコロッケ、エビクリームコロッケ、コーンクリームコロッケが各2つずつ。
さらにホウレン草とベーコンの炒め物にプロセスチーズの粉末をかけたもの。
タマネギとハムのチーズフォンデュ風マリネ、生クリームと胡桃入り卵焼き、マヨネーズのかわりにヨーグルトを入れたアッサリ味のポテトサラダ。
ご飯モノも入っているが、キノコのミルクリゾットにチーズ入りケチャップライス、そしてバターの風味がたっぷり効いたバジル入りガーリックライスという濃厚なテイストの三色旗である。
たぶん聞いているだけで胃もたれのする人もかなりいるだろう。
濃い。
濃すぎる。
なぜにそこまで乳製品を入れたがるのか?
理由は明白……妖精の味覚は人間と異なっているのだ。
彼等にとっての濃厚な乳製品の味や香りが、日本人にとっての米にあたると思って欲しい。
そしてこの弁当が人間にとっては忌むべき味覚であったとしても、妖精にとっては天にも登るような美味なのだ。
それぞれのメニューのバラ売りもしているのだが、選ぶ手間を掛けたがらない妖精達は、特に客の大多数を占めるゴブリンたちはこのセット販売を非常に好む。
そのため、いつの間にかついた名称が"ゴブリンセット"。
それがいつのまにか"ゴブリン弁当"と呼ばれるようになったのは、おそらくキシリアが無意識に口にしたものを誰かが聞きつけたからだろう。
そして優先購入件を持つ衛兵がいなくなると、今度は一般客が津波
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