Prologue 食の荒野に生まれ落ちて
私は魔界のお弁当屋さん
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ードなのである。
故に、人間たちがこの光景を見れば魔族たちとは別の意味で驚きを隠せないだろう。
"人間のすなる料理といふものを、魔族の我もしてみむとてするなり"……ではないが、人間の文化を嫌う魔界において料理を作るという事は、ありえないレベルの暴挙であった。
ましてや、ただの料理を通り越してお弁当。
それは単純に料理を作るという事でなく、持ち運ぶことが前提という高いハードルが存在するのだ。
いったい、なぜ魔族が料理を?
そして、なぜ料理屋を飛び越して弁当屋を?
いくら考えようとも答えは出ない。
ただ、わかっていることは、この店が7日周期の最初の5日間だけ、午前10時から11時にかけてのみ雑貨屋の一部を使って開店する……おそらく魔界における唯一のお弁当屋という事のみである。
「はい、いつものゴブリン弁当です! 容器の回収にご協力いただけましたので、容器1つあたり10セネカの割引で、120セネカになります!!」
少女から弁当を受け取ると、若者はウットリとした表情でその箱の中から漏れ出す香りに酔いしれる。
「あぁ……この香り! 悩ましい……そして狂おしい。 それ以上に愛おしい。 もう、これだけで頭がおかしくなりそうだ」
これが人間の作るものならば死んでも手を出そうと思わないが、同胞の作るものであれば心も動く。
それ以前に、ここの弁当は人間への敵愾心すらもかすむほどの引力を持っているのだ。
一口も食べることなく、その匂いだけで狂いそうなほどに。
お堅い魔界の神官たちや魔宮の姫君たちですら香りにつられ、彼等が下賎と厭うゴブリンたちの人垣の中に踏み込むほどに。
そして、ひとたびソレを口にしたものは、二度と元の食生活に戻ることは出来なかった。
そんな被害者の一人がここにも一人。
いや、その背後にさらに何百人も。
カラーンカラカラカラ……
あまりにも陶酔しすぎたためか、弁当の匂いを堪能していた若者の手からショートスピアが滑り落ち、周囲に甲高い音を響かせる。
「……あ」
だが、彼を笑うものは一人もいない。
むしろ嫉妬にも似た強烈な眼差しを注ぐのみである。
「じゃ、じゃあ、これでよろしく!」
あわてて槍を拾い上げると、若者は真っ赤な顔をしたまま恥ずかしさを隠すかのように元気な声でそう告げ、懐からコインを取り出した。
「まいどありがとうございます!」
続いて銀色に輝く100セネカ銀貨を若者から二枚受け取ると、少女は一回り小さな10セネカ銀貨を8枚返す。
物価の基準がまったく違うためあまり当てにはならないが、1セネカは日本人の感覚で10円より少し大きい程度になるだろうか?
弁当二つでおよそ1500円程度。
かなり良心的な値段といえるだ
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