第一幕その五
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第一幕その五
「懐かしい。故郷を思い出すよ」
「お義母さんを思い出すのね」
「ああ」
ミカエラの言葉に満面の笑顔で応える。
「故郷も。懐かしいよ」
「よかったわ、そう言ってもらえると」
「それに」
ここでホセはふと言うのだった。
「誘惑にかかりそうになくなったよ」
「誘惑って?」
「ああ、何でもない」
それは誤魔化した。
「何でもないよ。ところでこれからどうするんだ?」
「村に帰るわ」
ミカエラはこうホセに答えた。
「もうこれでね」
「そうなのか」
「お義母さんのところにね」
「じゃあこう伝えてくれないか」
ミカエラが故郷に帰ると聞いて彼女に託を頼んだ。
「何て?」
「有り難うって」
まず言うのはこの言葉であった。
「そして愛しているって。いいね」
「ええ、わかったわ」
ミカエラは笑顔で彼の託を受けた。
「きっと伝えておくわ」
「そして帰ったら」
「帰ったら」
「きっとこのキスを返すよ」
そう言うのだった。
「絶対にね。きっと」
「わかったわ。それじゃあね」
「うん、また」
ミカエラはそのままこの場を去った。ホセは一人になった。一人になった彼はミカエラから貰った手紙の封を切って読みはじめる。そこにはホセのこととミカエラのことが書いてあった。彼はそれを読んで母がどう思っているかを知った。その母の愛情にまた心打たれるのであった。
「そうだ、ミカエラだ」
彼は呟いた。
「あの女ではなく。俺にはミカエラがいるんだ」
何故かカルメンのことを意識していた。しかしこの時はまだ自分では気付いてはいなかった。花を手に持ち続けていることさえも気付いてはいなかったのだ。
「軍役を終えたら故郷で」
これからのことを考えていた。その時だった。
不意に酒場のある方が騒がしくなる。それを聞いてスニーガも兵士達もホセのところにやって来た。
「どうしたんだ!?」
「騒ぎが起こったようです」
ホセがスニーガに言う。
「酒場の方からですが」
「カルメンだ!」
酒場の方から女の声が聞こえてきた。それも複数の。
「カルメンがやったんだ!」
「違うわよ!」
それを否定する複数の声がまた聞こえてきた。
「マヌエリータじゃないか!先に言ったのは!」
「違う、カルメンだ!」
また言い返す言葉が出た。
「カルメンが悪い!」
「マヌエリータよ!」
「喧嘩の様だな」
スニーガは酒場の荒れようを見て呟いた。
「どうやら」
「そのようですね」
ホセも彼に応えて言う。
「それならすぐに」
「いや、待て」
だがここで女達が酒場から軍の方に来た。そうして口々に言うのだった。
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