暁 〜小説投稿サイト〜
レンズ越しのセイレーン
Mission
Mission7 ディケ
(8) キジル海瀑
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 ミラはユティに足払いをかけ、尻餅をついたユティのブーツを容赦なく脱がしにかかった。
 濡れたブーツを脱がせてあらわになったのは、皮が剥けてピンクの皮下細胞をじゅくじゅくと晒しながらも、裂けた皮は炙られて硬くなった足裏。

 ミラはその両足に治癒術を施し始める。エリーゼやジュードが使う術に比べればひどく弱い。それでも癒しのマナは、ぷじゅ、ぷじゅ、と爛れた細胞を一つ一つ元に戻していっていた。

「どってことないのに……」
「どってことなくない!」

 エルがユティに詰め寄った。

「ケガしてるならイタイってちゃんと言わなきゃ。ガマンしてたら誰も分かってくれないんだからねっ」
「この程度は我慢の内に入らない」
「もーっ。ああ言えばこーゆーっ」
「ナァ〜〜」

 どうしていいのか分からず立ち尽くしていたルドガーのホルスターで、GHSが大きく振動して着信を知らせた。ルドガーは条件反射で急いでGHSに応答した。

「はい、ルドガーですっ」
『んな大声で言わなくても聴こえる』

 血の気がざっと引く音が聴こえた気がした。電話の相手はよりによってリドウだった。

『ヴェルから聞いた。分史に入ったんだってな。で、ユリウス見つかったのか?』
「え、えっと、その」
『こっちじゃ見つからなかったんだからそっちしかないでしょ。捕まえたわけ? それともまさか、逃がしたとか言わないよね』
「あ…」

 どうしよう。その想いで頭がいっぱいになる。クランスピア社はユリウスを捕縛する方針だし、奪われた「道標」は返してもらわなければ、エルをカナンの地に連れて行ってやれない。

 それに、何より、何よりも。

(また、つかまる。ここで兄さんをゆるしたら、またおれは、あそこに逆戻りする)

 その時、ハ・ミルでの会話を思い出したかは知らない。単にさまよわせた視線の先に彼がいただけかもしれない。
 ルドガーはローエンに目線をやっていた。

 ローエンが進み出る。訝しむ間に、失礼、と言い置いてローエンはルドガーのGHSを取り上げ、代わりにリドウに報告を始めてしまったのだ。これにはルドガーはもちろん、ユリウスもあ然とした。

「ええ、ルドガーさんはまだ『道標』奪取のための戦闘から回復しきっておらず。…………。今は何とかしゃべれるという程度ですので、わたくしでご容赦ください。…………。ええ、ちゃんと手に入れましたよ、『海瀑幻魔の眼』ですね。……。ええ。……はい……」

 蚊帳の外のまま進む話。ルドガーはただ立ち尽くしていた。同時に、安心して、そんな己をみじめに感じていた。

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