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レンズ越しのセイレーン
Mission
Mission7 ディケ
(8) キジル海瀑
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を一望し、握っていた拳を開いた。

「コレ、誰かにあげたい。要る人、いる?」

 ユティが掲げたのは、彼女自身が満身創痍になって得た『海瀑幻魔の眼』。

「ワタシ、要らない。カナンの地に行きたい人にあげるのが順当だと思うけど、誰にあげていいか分からない。だから求む立候補」

 決定までは短かった。ルドガーがユティの手から「道標」をひょいと取り上げたからだ。

「俺が要る。いいか、ユティ」
「ユティは誰が持ってても異存はない」

 ルドガーは密かに強く「道標」を握りしめた。
 ルドガー自身の力で手に入れられなかった「道標」。ユリウスの流血とユティの激闘がなければ得られなかったモノ。

(結局こんな時でさえ俺は兄さんに助けられなきゃ何もできなかった。エルと一緒に『カナンの地』に行くって、約束したのに)

 目の前の少女が骸殻能力者だったという事実は、ルドガーの役者不足を思い知らせた。

(エルはユティが骸殻で戦えるって知って、どう思っただろう。もし俺なんかよりこいつのほうが頼りになるなんて思ってたら)

 エルはルドガーを見限って、もっとカナンの地に行けそうなユティに付いて行きはすまいか。ルドガーの手から飛び立ってしまうのではないか。その未来が怖くてたまらない。

 ルドガーがユティと目を合わせられないままでいると、ローエンがユティに声をかけた。顔を上げる。
 ローエンが持っていたのは、変身前にユティが放り出した黒いカメラだった。

「精密な機械のようですから、乱暴に扱うのはよろしくありませんよ」
「――――」
「全力投球の趣味、なのでしょう?」

 ユティは無言でローエンからカメラを受け取り、首からかけ直した。その表情はどこまでも重く苦い。まるでカメラを持つ己を恥じ、悔いているように見えた。

(恥じたいのは俺のほうだってのに)

「ローエン。ユリウスの傷、治してあげて」
「分かっております。ルドガーさんのために負った傷ですからね」

 ローエンは呆けたユリウスの前に行き、ユリウスの腕の傷口に両手をかざす。ぱっくりと裂けたユリウスの右腕は、癒しのマナによって塞がった。

「申し訳ない。お手間を取らせた……精霊術というのは便利だな」
「エレンピオスの方にはそうお見えになるでしょうね」

 答えたローエンは少しばかり寂しげだ。ここにもエレンピオス人とリーゼ・マクシア人の価値観の壁があるのかもしれない。

「ほらユティ、あなたも靴脱いで」

 ミラがユティに声をかけた。

「何で?」
「さっき! 幻魔から『道標』と時歪の因子(タイムファクター)抜くので、足の裏、火傷してるでしょ。見せなさい」
「どってことない」
「こっちにはあるの。ほら、さっさと脱ぐのっ」


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