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戦国御伽草子
参ノ巻
守るべきもの

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、それから息を切らせるあたしに目を走らせた。



 あたしを憎んでいるのかと思うほどに、その瞳は思わず背がぞくりとするほど冷たいものだった。



「待って!」



 躊躇なく立ち上がる気配を感じて、あたしは速穂児に飛びついた。



 速穂児は乱暴にあたしを振り払った。あたしの体は叩き付けられるように畳に落ちた。速穂児の焔の如く燃える瞳が、あたしを射貫いた。



「何故、止める!」



「あんたが殺そうとするからよ!」



「当たり前だ!」



 逆に迷いなく怒鳴り返されて、あたしは一瞬たじろぐ。



「当たり前だなんて言うんじゃないわよこのオタンコナス!」



 しかしそこは伊達に前田の瑠螺蔚姫じゃあない。すぐに体勢を立て直すと、もいっぺん飛びついて、あたしは速穂児を床に押し倒した。



「こ…っ、の、じゃじゃ馬め!」



「じゃじゃ馬上等!あんた、村雨でも不審者をすぐに殺してたの!?違うでしょ!情報を引き出すためには殺さず捕らえるのは基本でしょうが!そんなんでよく忍びだとか言ってられたわねぇ!」



 あたしは捲し立ててから、唇を噛んだ。



 違う。あたしが言いたいのは、こんな、こんなことじゃ、なくて…。



 あたしは速穂児の胸ぐらを掴んだまま、そこに突っ伏した。



「ころさないで」



 息を吸う速穂児の胸は大きく隆起する。それにあわせて、あたしの体もあがったり降りたり(せわ)しない。あたしが呟いた言葉は、聞こえただろうか。聞こえなくても、速穂児はあたしの言いたいこと、きっとわかってる。



 速穂児、ここは村雨家じゃないよ。命を奪う日常を、強要したりなんて、誰もしないよ…。



「…もう逃げた。思ったより手練れだ」



 張り詰めた力を抜くように、呆れたように速穂児は言った。



「うん」



「本当に、おまえは…」



 速穂児は溜息をついて上半身を起こした。



「わっ、あ…」



 転がりそうになったあたしの頭の下に素早く速穂児の手がまわる。



「…勾玉」



「あ、え…?」



「探していただろ。すぐ近くに落ちていた。大事なものなら、しっかり持っておけ」



 あたしは言葉がすぐ飲み込めず、燃え尽きたあとのようにどこかぼんやりとして勾玉を受け取った。



「怪我はないか」



「ない、と思う…」



 自分の格好の乱れ具合にあたしは赤面するより先に青ざめた。
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