参ノ巻
守るべきもの
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」
と言って、男はあたしの帯を掴むと、慣れたように足を浚った。
見事にあたしはすっころび、容赦なく男はあたしの肩を押さえつける。
な、な、な…。
よほど声を出されるのが嫌なのか、用心深く、またもや口を押さえられる。
「むーっ!うーっ!」
あたしはじたばたと藻掻いた。
その時に気がついた。帯が、解かれている!暴れたせいか衣は大分はだけて上気した肌が冷たい空気に触れていた。
あたしは咄嗟に乱れた衣をかき合わせた。
な、なにこれ…。ど、どういう…。
いやもうここまできたらこの狼藉者の目的はひとつしかないのはわかりきっているのだけれど、頭がついていかない。
ころ、殺される…?いや殺されるだけならまだいい。この男の目的は別のことのような気がしてならない。考えたくないけれども!
「うーっ!うーっ!むー!」
あたしは髪を振り乱して呻いた。そして無意識のうちに、心で強く叫んでいた。
兄上っ!
男の手が、あたしの鎖骨をなぞって降りる…。
けれどそれは胸元でぴたりと止まった。そのまま、時が止まったかのように動こうとしない。
「…?」
違う空気を感じて、あたしはいつのまにか固くつむっていた目を片方だけ開けた。障子が半身ほど開き、月の光があたしの腰のあたりを照らしている。
そこから伸びた抜き身の刀身は、うつくしくもぴたりと誤ることなく男の首の表皮に突き立てられていた。
刃が触れる、その首筋を脂汗がすっと落ちてゆく。
刀を動かすことなく、障子から表れたのは速穂児だった。その顔は、無表情だった。しかし激しい感情が渦巻くその身に空気が凍る。助かったと安堵する間もなく、あたしまで、息苦しい空気に緊張で汗が滲んだ。
速穂児…?
誰も何も声を発さなかった。
速穂児はあたしの真横まで来てゆっくり膝を折ると、あたしの心臓の上に乗っている男の手を見留めた。炎のような感情が一気に瞳を焦がす。
あたしははっとして、咄嗟に渾身の力で男の腹部を蹴り飛ばした!
火事場の馬鹿力というか、速穂児が来る前に発揮できなかったのが惜しまれるほどに男は無様に縁を越して庭まで転がり落ちた。
あたしが男を蹴りとばすのと紙一重の差で、頭上に刀が翻った。
「…」
速穂児は刀を振り抜いた姿勢で、庭に落ちた男を見
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