無題
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に扱う嘗ての彼からは考えられない愚だ。
……しかし、確かに紛れも無く『衛宮切嗣』だ。心の奥底に眠る、刃物の様に鋭い良心が――人として誰もが持つ心が、彼を苦しめる。何故、大切な――シャルロットを危険に晒すのか……
彼は機械なんかじゃない、人なのだ。他者の痛みすら、我が事の様に解し嘆く人なのだ。どうして、シャルロットが自分の手で危険に晒されるのを許容出来ようか?
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「そう、だったんだ……」
粗方の事情を語り終えた末、シャルロットは漸く納得の意を示した。
「……だから、こうする以外無いんだ」
鉄仮面を被ったまま、切嗣は話を締めくくった。
――嫌いだ。僕は、切嗣のこの顔が大嫌いだ――
しかし納得したとは言え、シャルロットは未だ不服だった。目には見えないが、切嗣は疲労を押し隠しているのが解ったからだ。いや、疲労だけでは無い。
――感情を消し、全てを硬く冷たい殻の中に封ずる彼が嫌いだ――
「ねえ、切嗣。事情は解ったけど、少しは休んで」
なら、僕は硬い殻を破ろう。
「とは言っても、何が起こるか解らない訳だし……」
切嗣にとって、一瞬は命取りだ。一瞬も有れば、彼なら危機を脱する事が出来る。だが、事後の事に関しては、限り無く無力だ。彼が寝ている時を狙い、呪いの泥を降らせる事も可能だ。
「じゃあ、ずっと不眠不休でセシリア達の傍に居るつもり?」
「……一応、休みは入れている」
恥じ入る様に、言葉が弾かれた。
それは、事実だが正しくない。もし、切嗣の最近の生活を知ったら、医者が激怒するだろう。そんな生活を送っていたのだ。そんな生活を見せられていたのだ。
――まるで、擦り切れた心を、無理に嗣いだみたいだ――
だから、
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シャルロットが彼を押し倒すのに苦はなかった。
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ドスンと、二人分の体重を受け止めた床が悲鳴をあげた。幸い椅子は床に固定されていたので、倒れて大きな音を出すことは無かった。
だが、それ以上の衝撃が切嗣を襲った。正面を向けば、金髪の可愛らしい女の子が自分に覆い被さる様に跨がっている。
「普段の切嗣なら、こんなにも簡単に押し倒されなかったよ……」
状況とは裏腹に、甘い吐息が切嗣の顔にかかり、脳を麻痺させる。
「そんな状態で、誰かを守れるの……?」
問われる間でも無い。無理だ。まさかシャルロットがこんな行動をとるとは予想出来なかった、という事を指し引いても、今の切嗣は余りに脆かった。肉体面もそうだが、何より彼の心が押し潰されそうだったから……
もう、以前の衛宮切嗣には戻れない。最愛の妻を犠牲にしてまで、何も得られなかった彼には、以前の鉄の心は宿らない。
――それほど迄に、彼は傷だらけだった――
今、シャルロットが切嗣をどうこうするのは赤子の手を捻るより容易い。その口
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