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レンズ越しのセイレーン
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捕食に貪欲で、凶暴で。すごい勢いで集まってきた。全然可愛くなかったの。ワタシ人間なのに全然従順じゃなくて、エサ奪い取ろうとするだけなの。すごいね」
「――もしかして今、興奮してるか?」

 両拳をぶんぶん振っていたユティは、自分がどういう状態か分かっていないように首を傾げた。
 ユリウスは片手で顔を覆って盛大に肩を落とした。

(重症だ。どんな箱入り娘だ)

「あ」
「今度は何だ」
「カメラ。撤収」

 ユティは駆けていってカメラを回収し、三脚をすばやくケースに納めていく。

(どこまでも自分のペースで生きてる子だなあ。いっそ清々しいくらいだ)

「エサ、余った」
「適当にくず籠に捨てればいいさ。――さて、そろそろ時歪の因子探しに行くか」
「ココのはヒトかな、モノかな」
「君はどっちがいいんだ」
「どっちでもいい。ちゃんとどっちでもできるように教えてもらった。ユリウスは?」
「君と同じだよ。やることは同じならどちらでも変わらない。ただ、個人的な希望としては魔物だな」

 良心の呵責に悩まされずにすむ。物に次いで後味の悪さもない。

「選択肢にないの、言った。反則」

 ユティは軽く頬を膨らませた。案外年頃の娘らしい顔もできるじゃないか、とユリウスは小さく笑う。

「選択方式だと先に宣言しなかったほうが悪い。まあ、普通の魔物ならまだしも、ギガントモンスターだったら少し悩むが」
「何で?」
「ギガントモンスターがどういうものか知らないのか? 普通のエージェントや傭兵じゃ太刀打ちできないからギガントなんて名が付いたんだ」
「普通のエージェント、じゃない。アナタは誰より強いのに」

 ユリウスを見上げる(そう)(ぼう)には一点の曇りもない。
 彼女は本気で、ユリウスならどんな強大な魔物であろうと楽々勝てると信じている。憎らしくなりそうなほどに、偶像のユリウス・ウィル・クルスニクを信じている。

「強いフリをしてきただけだ。実際には俺程度ならそこら中にいる」
「いない。ビズリー社長、言ったもん。ユリウスは最強のエージェントだ、って」

 ユリウスは言葉を失った。ビズリーの名を出されるとは予想だにしなかった。だが、すぐに嘲笑が口に昇る。

「……俺の凡庸さを一族の誰より知るあの男が? 本当にそんなことをぬかしたなら、皮肉以外の何でもないな」
「本当なのに……」
「無駄話はここまでだ。時歪の因子(タイムファクター)を探すぞ」

 ユティは肯いてから、紙袋を破いた。パンくずやしなびた野菜が辺りに散らかる。突如として現れた大量のご馳走に、ハトたちが殺到した。集まったハトの中には、エサにありつきそびれて露店を狙うのもいて、露店商の悲鳴がちらほら聞こえた。

(俺を一番に見限
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