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Report1 カストール
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がむユティに提案する。
「何がごはん?」
「鳥は基本雑食だから何でも大丈夫だぞ。ほら、あの辺の露店の、パンくずとか野菜の切れ端でもいい」
「10秒でもらってくる」
ユティは俊敏に立って露店へと走っていった。
こんなふうに和む余裕はないと頭では分かっている。行くぞ、と一言告げればユティは文句を言わずに働くこともこれまでの付き合いで知っている。それでもユティの道楽を黙認するのは、ユリウス自身が逃亡生活に倦んでいて、新しい刺激を欲しがっているからなのだろう。
「もらってきた」
「ジャスト10秒……」
戻ってきたユティは質の悪い紙袋の口を戦利品のように掲げた。
「じゃあ手に持ったまま近寄ってみろ。手を開けたままにすると、タチが悪いのはエサだけ奪って逃げるから、手の中に握り込んでおくんだぞ」
ユティは紙袋を持ってハトの群れに向かおうとした。しかし、はたと間を置いて、Uターン。
ユリウスが見守っていると、ユティは三脚ケースを降ろし、中から三脚を立ててカメラをセットし、しばらくカメラをいじったり覗いたりしてから戻ってきた。そして、素直にもユリウスが言った通りのやり方でハトを呼び寄せ始めた。
ユリウスは広場の噴水の縁に腰を下ろし、ぼーっとユティを眺めた。
くるくる。好き勝手なステップ。人間が好き勝手に動いても鳥たちは捕食本能のままにユティに付いて回る。少女とハトの即興舞踊。
足りないのはバックミュージックだけ。
ユリウスはふと、なんとなく、本当に気まぐれに。癖になった「証の歌」をハミングしていた。
「その歌」
ユティがステップを踏むのをやめて、こちらを向いてごく淡く笑った。
「その歌、大好き。寝る前にとーさまが歌ってくれた」
そしてユティは唄い始める。伸びやかなハミングは雑踏とハトの鳴き声をコーラスに解けてゆく。
ユリウスは、自身以外の声でこのメロディを聴くのが初めてだったので、ついユティが歌い終わるのを待ってしまった。
「君のお父さんはクルスニク直系なのか」
「うん」
「それなら証の歌が伝わっていても不思議はない……か?」
もっと深く尋ねてみようとしたユリウスは、ユティが話す内に手を開いているのに気づいた。
エサの屑でベタベタのままの手の平を、だ。
次々に肩や腕に止まるハトの群れ。数は暴力である。ユティはどんどん萎縮していく。あっとういうまにハトまみれだ。
「や、や、ぅぁ」
「言わんこっちゃない!」
ユリウスは急いで駆け寄ってユティに集るハトを手で追い払った。
「びっくり、した」
「こっちがびっくりだよ」
「本物の生き物って、あんなに俊敏なのね。初めて知った。しかもすごく
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