第二幕その六
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第二幕その六
「そこに座ってね」
「ああ」
ホセを目の前に座らせて歌い踊る。ホセは黙ってそれを見ている。その踊りが終わりに近付いた時だった。と奥からラッパの音が聞こえてホセの顔が変わった。
「カルメン、待ってくれ」
「どうしたの?」
「ラッパの音だ」
ホセが言うのはそれであった。
「あの音を聞いたら」
「帰るとでもいうの?」
「それしかないんだ、兵隊のことはわかっている筈だ」
帰営ラッパである。それが絶対であることは言うまでもないことである。
「じゃあいいじゃない」
「いいって?」
「そうよ。演奏が来たのよ」
カルメンにしてはそうである。さらに機嫌をよくさせて踊ろうとさえする。
「ラッパの音に乗ってね。それで」
「冗談じゃない。俺は帰らないといけないんだ」
しかしカルメンはそれに取り合おうとはしない。それどころか不機嫌な顔でホセを見据えてくるのだった。
「何よ。そんなのが怖いの、ラッパなんかが」
「兵隊にとっては敵より恐ろしいものだ」
その通りであった。規律の方が恐ろしいのが軍人である。兵士をして敵より下士官を恐れさせよというのはプロイセンのフリードリヒ大王の言葉である。それは即ち下士官がその規律を守らせる者だからである。ホセも下士官である伍長だからそれはわかっているのだ。
「好きになったのに、そんなことで」
「俺は兵隊なんだ」
ホセは言い返す。
「だから帰らないと」
「じゃあ帰ったら」
怒った顔でホセに言い返す。
「帽子にサーベルに弾薬持って。さっさと帰りなさい」
「何だ、その言い方は」
今の物言いにホセも激昂した。
「俺だって行きたくはないんだ」
「じゃあここにいればいいじゃない」
「けれど出来ないんだ」
それを言うのだった。どうしてもと。だがカルメンの言葉は止まらない。
「ラッパが怖いのならラッパに従えばいいのよ、ほら帰りなさいよ」
「帰ったらどうするんだ」
「そのままよ」
冷たく言い放つ。その鋭い視線と共に。
「そのままね。お別れよ」
「俺は御前を愛しているのに」
「だったらそれを見せるのね」
またしても冷たく言い放つ。
「今あたしに」
「信じないのか、俺を」
「何を信じるっていうのよ」
言葉はあくまで冷たい。
「ラッパなんか怖がる臆病者の何を」
「どうしても信じないっていうのか」
「ええ」
目も鋭い。相変わらず。
「その通りよ」
「じゃあ聞いてくれ」
ここまで言われてはホセも引き下がれなかった。彼は言う。その胸にあった黄色い花を手に取って。それを他ならぬカルメンに見せながら言うのであった。
「御前の投げたこの花をずっと手放さなかったんだ。もう枯れてしまっているけれどそれでも赤い香りは決して消えはしなかった
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