第百十七話 鬼左近その十二
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「特に初代の足利尊氏にはな」
「ですな。折角朝廷を二つに分け戦乱を操ろうとしたというのに」
「結果として幕府を立てそれを防ぎました」
「鎌倉の頃より仕組んでいた謀があえなく防がれました」
「三代の足利義満の頃に完全に」
「応仁の乱を起こして意趣は返したがのう」
だがまだ恨みは強い、そんな言葉だった。
「してやられたわ」
「全くですな」
「あ奴にもまた」
「大和朝廷にも坂上田村麻呂にも俵藤太にもやられ」
話は平安の頃にもなる。
「安部清明に防がれ」
「平家にも源氏にも阻まれ」
「そして今に至りますからな」
「この国の日向におる者は全て敵じゃ」
老人の声にまた悪意が宿る、それはこれまで以上に強いものだった。
「あらゆる者達がな」
「我等を闇に追いやったあの者達」
「その者達は全て、ですな」
「世には二つの者達がおる」
老人の言葉は闇から全てを見るものだった。
「まつろう者かそうでないかじゃ」
「そして我等はまつろわぬ者」
「それでありますな」
「左様、わし等はまつろわぬ者達よ」
それに他ならないというのだ。
「気の遠くなる間この闇の中に潜み蠢いてきた」
「その闇からの恨みを晴らす時」
「その時になりますな」
「闇で全てを覆う」
それが彼等の復讐だというのだ。
「そうしてやろうぞ」
「ではその為にも」
「織田信長を」
「しかし焦らぬ」
このことは戒めた、古来より焦りはせぬに限るというがこの者達もこの教訓は頭の中に入れている様である。
それ故に今も言うのだった。
「それはせぬぞ」
「そうですな、焦ることはありませぬ」
「それには及びませぬな」
このことは周りの者達も否定した。
「我等は気の遠くなる程ここにいますから」
「ほんの数年、何でもありませぬな」
「ほんの一眠りの間程度です」
「気にするまでもありませぬ」
「そういうことじゃ。織田信長も他の者達も確実に仕留める」
老人の声にある闇がさらに深くなった。
「蜘蛛の糸の様に絡め取るぞ」
「蜘蛛の糸ですな」
「それですか」
「そうじゃ、蜘蛛の糸じゃ」
そしてそれは、だった。
「土蜘蛛の様にな」
「土蜘蛛、そう言われてもきましたな」
「鬼だのとも言われてきましたが」
「まつろわぬ者達として蔑まれ罵られてきましたが」
「そうした名前もありましたな」
「忌々しい名よ」
老人の声も土蜘蛛だの鬼だのいう言葉には嫌悪を見せる、まるで触れてはいけないものに触れたかの様に。
「実にのう」
「しかしそれならばですな」
「土蜘蛛ならば」
「蜘蛛の糸の様にじゃ」
そうして絡め取るというのだ。
「捕まえ仕留めるぞ」
「ですな。蜘蛛らしく」
「そうしていきますか」
「そして今度こそ
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