第百十七話 鬼左近その七
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それで信長も言うのだった。
「はじめて都に上がった時からじゃ」
「桶狭間の前の時ですな」
「うむ、その時から合わぬ」
その都の味がだというのだ。
「料理人はそこに気付いて濃い料理にしてきたがな」
「あのことで兄上を笑う者もいますな」
「笑いたければ笑うがよい」
それは特に窯らないというのだ。信長は己の器も見せた。
「わしのことを芝居にしたり絵にするのもよい、好きなだけな」
「ではこのことは」
「わしにはわしの舌がある、都の味が合わぬのを隠すつもりもない」
だからよいというのだ。
「好きなだけな」
「言わせておきますか」
「取り締まることもせぬ」
それもしないというのだ、
「そんなことでいちいち怒らぬ」
「左様ですか」
「わしが召抱える料理人ならわしの舌に合わせて美味いものを作ってもらうだけじゃ」
これが信長の料理に対する考えだった。
「気取ったものはよい、味は好みでな」
「しかし合わせることも」
「まあ仕方ないのう」
信長はここでまた苦笑いになる。
「それはな」
「そういうことですな」
「しかし味も国によってまことに変わるな」
「近畿と東海で違いますな」
このことは信広もわかってきていた。
「東海は濃いですが近畿は薄く」
「四国でも味が違うからのう」
「そうですな。国よって違いますな」
「かなりのう。それでこれからは醤油や味噌、味醂も作らせる」
これまで以上にそうするというのだ。
「酢もな」
「それがまた国を豊かにしますな」
「商売になり」
「そういうことじゃ。無論塩もじゃ」
塩は忘れてはならなかった、城にも常に蓄えているものだからだ。
そうしたものも忘れずに言う信長だった。
「多く作らせようぞ、赤穂等でな」
「あの場所ですか」
「あの場所はよき塩が採れるそうじゃからな」
それでだというのだ。
「だからじゃ」
「その国それぞれで合うものを作らせるのですな」
「そういうことじゃ。胡麻も然りじゃ」
これもあった。
「絹も綿も作らせるぞ」
「綿はよいですな」
綿については信広が言ってきた。
「あれは大層着心地がよいです」
「絹とはまた違ってな」
「はい、あれはよいものです」
「よいものはどんどん作らせる」
信長の考えの一つだ。
「そうしていくぞ」
「あちこちで作らせ売らせますか」
「そうすればよい。茶も同じじゃ」
信長が愛するこれもだった。
「多く作らせればそれだけよくなる」
「茶が安く出回りますな」
「その通りじゃ。茶は一人で飲むより大勢で飲んだ方が美味い」
酒と同じだが信長は酒を飲まないのでそちらはわからない。だがそれと似た様な風に言ったのである。
「それ故にじゃ」
「ではそれも」
「茶はよい
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