46:救ってみせろよ
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ることなど決して無いと思っていた……家族の温もりがあったのだ。
「――マーブルさんの、お前への愛情は…………本物だ」
――そう。そこには、紛れも無い……一人の母親の姿があったのだ。
「……〜〜ッ……マーブルッ……!」
ユミルの顔がくしゃりと歪み、目尻から再び涙の粒が溢れ、頬にある水滴のラインを辿り落ちていく。
「マーブルさんとお前は、また二人でやり直せる……。傷つけてしまった人達も、まだ償えるんだ。なにもお前は、俺と同じ悲しみを背負う必要は無い。……なによりも、あんなに壊れてしまったお前……《死神》の姿を、天国のルビーが望んでいるはずがない」
「…………ルビーっ……」
ユミルの瞳が、まるで憑き物が落ちたかのように彩度が戻ってゆく。
暗く深いターコイズから、透き通るようなエメラルドに。
「そしてそれは……まだ生きている、お前の大切なもう一匹の相棒も、同じ気持ちのはずだぜ……?」
俺はクイ、と顎を右にやる。ユミルがそこを向き、そこには……まだまだ距離が狭められていないものの、ゆっくりと、けれどまっすぐに主の元へと三本の足で歩を進める、純白の仔馬の姿。
それを見たユミルが、ひぐっ、としゃくりとあげる。
「ベリーッ……」
俺は手から《ダークリパルサー》を離した。それはトスッと音を立てて、刃先から軽く草地に刺さり立った。
そしてその手をユミルへと差し出す。
「……この手は……?」
「お前が、再び人として生きる為の……やり直しの第一歩だ。――……ユミル、俺と仲直りをしよう」
「え……?」
ユミルは、ほんの少しだけ鋭い、くりっとした目をあらん限りに丸くする。
……本当に久しぶりに見た気がする、キョトンと純粋に驚く、その大きく綺麗な瞳。
「さぁ……今度は俺とお前で、ベリーに証明してやろうぜ。――……人は、信じあえるんだ、ってな」
「…………キリ、トッ……」
その大きく見開かれたままの瞳から、じわりとまた一際大きな涙の粒が溢れ出す。
しかしその涙は、今まで流された涙とは違う、特別なもののように……すぐには瞼から零れず、下睫にみるみる溜まって膨らんでゆく。
「…………………………ひきょう、だよ……」
長い沈黙の後に、俺を見上げたまま、小さく呟く。
それと同時に目がくしゃりと細められ、ついに……ひどく綺麗な大粒の涙が頬を伝い、その顎先から煌めきながら落ちていく。
「……卑怯だよ、キリト……。そんな……そんな言い方をされたら、ボクッ……」
「……ははっ」
つい、笑ってしまう。そして笑ってしまったそのついでに、
「なら、そんな卑怯な俺と一緒に……もう、この事件を――――終わらせようぜ」
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