第32話 だって、友達なんだから
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「じゃあもう用はないわっ!行きましょすずかっ」
「えっ、あ、アリサちゃん――」
ガタガタッ、と乱暴な閉め方をされた教室の扉を、純吾机から立つこともできずに見送る。口をきゅっと結び、机の上で震えるほど手をかたく握りしめ、何かに耐えるかのようだった。
「純吾君…」
そんな彼の隣に立って、なのはが呟く。
どうして彼がアリサやすずかに対してよそよそしい態度をとるか、なのはには分かる。それは自分が悩んでいることと恐らく、同じなのだろうから。
「ん…、大丈夫」
そんななのはの気遣わしげな視線に気づき、少しばかり表情を和らげると、純吾は自分のかばんを手繰り寄せ、いつものぶかぶかのニット帽を取り出した。
「うん。じゃあえっと、これからどうする?」
なのはの問いに答えないまま、純吾はそのまま帽子をかぶり立ちあがる。それから、扉の方を向きながら、小さな声で答えた。
「…行きたいとこ、ある。そこで、話そう?」
くるりと向き直り、今度はなのはの目をまっすぐに見つめる。ニット帽の陰からのぞく、強い光を持った瞳。何か強い決心を感じるそれに吸い込まれるように、なのはは純吾の問いに頷くのだった。
「わぁっ! すごい、こんな所があったんだねぇ」
「ん…、ここ、最近見つけた。ここからなら街、全部見える」
なのはの嬉しそうな声に、純吾が小さく口元をほころばせて答える。
あの後、学校からいつもとは違う系統のバスに乗り、この場所にやってきた。「八束神社」と名付けられたそこは、海鳴市の西町の山頂にある小さな神社である。
小学生が昇るにしては長い石段を、なのははふぅふぅ言いながら、純吾はすいすい昇り切って振り返ってみて、なのはの口から最初に出てきたのが、先ほどの嬉しげな声だ。
「うん、本当。学校も、翠屋も、私の家も、全部小さく見えるよ」
なのはの言うとおり、神社の境内からは海鳴市のほぼ全景を見る事ができた。視界のすぐ下には自分たちや姉の通う学校や、翠屋のある市街があり、右手には海鳴臨海公園と、そのすぐ傍に陽光を反射して青く光る海が見える。左手には、本当ならすずかやアリサの家が見えるのだろうが、残念ながら境内の木々に遮られている。
どちらにせよ、午後のまだ温かい日差しの下に見る海鳴の全景は、人々の活気に満ちた市街地と、自然の命煌めく緑と青のコントラストの美しい、風光明媚なものであった。
けれども、なのはは初めて見る絶景に興奮しながらも、隣へ視線をずらす。さっきまでここの事を嬉しげに話していた純吾が、今はもう苦み切った顔になっていた。
そう、ここに来たのは、この景色を見るためではない。今、悩んでいる事――恐らくは、あの少女、フェイトの事――を相談して、これか
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