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失われし記憶、追憶の日々【精霊使いの剣舞編】
第六話「男の精霊使い × 編入 = 見せ物」
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装として変成した精霊の仮の姿だった。


「はしたないですわよ、クレア・ルージュ」


 気品ある声とともにプラチナブロンドの少女が胸に手を当てて立っている。前世の頃の知識でその子の姿に見覚えがあった。


 ――リンスレット・ローレンフロスト。名門貴族ローレンフロスト伯爵家の令嬢であり、氷精霊フェンリルと精霊契約を結んでいる。確か『氷魔のリンスレット』の異名で呼ばれ、精霊使いとしての実力はクレアにも引けを取らないほど高かったな。


 クレアのライバルであり良き友人でもあったはずだ。


「……っ! なんのつもりよ、リンスレット!」


「彼はこのわたくしの隣に座りたいと仰っているの。潔くあきらめなさい」


 フフンと髪をかき上げるお嬢様。エメラルドグリーンの瞳は真っ直ぐクレアに向けられており、優越感に満ちた状態である。対するクレアの瞳には剣呑な色が浮かんでいた。


 リンスレットはつかつかと眼前まで来ると、俺の顔を見凝視する。


「ふーん、顔は悪くはないけど良くもない。でも落ち着いた雰囲気がありますわね。……あなた、わたくしの下僕にならない?」


「は?」


 いきなり下僕勧誘がきた。クレア然り、ここの生徒は人を隷属させることが一般的なのか?


「ちょっと! 人の契約精霊を勝手に取らないでよ!」


「いや、契約していないが」


 慌ててリンスレットの元に近づくクレアについ半眼でつっ込んだ。彼女も彼女で人の話を聞かないから困る。


「あら? 彼はあなたと契約していないと言っていますけど? それにあなたの所有物というわけでもないでしょうに」


 ――ふにゅん。


 柔らかい感触が右肘からした。リンスレットが俺の腕を取って自分の腕に絡めたのだ。胸が肘に当たり、柔らかな感覚を触覚に訴えかけると同時にフローラルな香りも鼻孔を擽る。


 さすがにこれは予想してなかった俺は一瞬身体を強張らせた。次第に顔に熱が帯びてくるのが分かる。


「なっ!? は、離れなさいよ、ばか!」


「いやですわ! この残念胸!」


「残念じゃないもん! これから育つもん!」


 睨み合うお嬢様が二人。目に見えない火花を散らし、互いに一歩も譲らない。


 対抗してクレアも反対の腕を取る。リンスレットとはまた違った香りがした。そろそろ俺の心臓がヤバイのだが。前世同様、女に耐性がないのだ。旅では色気なんて皆無だったし。


 取りあえず、この無数の視線をどうにかしよう。俺に羞恥プレイの趣味は無い。


 両手を捻ることで二人の重心を操り、スルッと手を引き抜く。何の抵抗も無く簡単に解けたことに二人は目を丸くしていた。

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