A's編
第三十一話 後
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まるで沈んだプールの底から水面に浮かびあがっていくような感覚だった。意識がゆっくりと浮上していくような感覚。一度沈んだ僕の意識が再び表に出ようとしていた。
ぱちっ、と閉じられていた瞼を開けてみれば、視界を支配したのは真っ黒な暗雲だった。
えっと……ここは? ……というか、僕はどうして寝ていたんだ?
なんとなく目覚めたという感覚はある。つまり、僕は今まで寝ていたということである。なぜ、寝ていたのか。すぐには思い出せなかった。
そもそも、寝ている場所が不思議である。背中から足元にかけては硬く冷たい感覚が支配しているにも関わらず、首からは上は少しだけ上がっており、頭部には暖かさを感じていた。まるでフローリングに枕だけで寝ているような感覚だった。
だからだろう、この状況から寝る直前までの記憶がすぐに思いつかなかったのは。
少し探れば、思い出すことは可能だっただろう。しかし、それを遮るように頭上から声がした。
「目が覚めた? ……ショウくん」
聞こえてきたのは聞きなれた声だった。声が降ってきた方向に目を向けてみれば、そこには思っていた以上に近い位置に彼女の顔が存在していた。僕の友人の一人である高町なのはちゃんの顔が。
「なのは……ちゃん?」
「うん、なのはだよ」
そう答えながら彼女は笑う。
どうして、なのはちゃんがここにいるのだろうか。なのはちゃんには何も言っていなかったはずだ。今日の封印に関してもなのはちゃんにできることは何もないため、クロノさんはなにも連絡していないといっていた。
できることがない、ということに関しては、僕も同様なのだがはやてちゃんが心細いだろうということで、僕も同伴したのだ。
「―――って、はやてちゃんはっ!?」
未だ呆然としていた頭もいい加減に活性化しはじめ、今までの経緯を思い出していたところで僕は、記憶が途切れる直前の光景を思い出した。
クロノさんに追いつめられ、叫んでいたはやてちゃん。彼女の気配を今の僕は感じられなかった。
不安に駆られた僕は、寝ている状態から一気に起き上がり、現状を知っているかもしれないなのはちゃんに問うために振り返る。先ほど、僕を覗き込むように話しかけてきたなのはちゃんは、僕のすぐそばにいた。冷たい冬のコンクリートの上に聖祥大付属小学校の制服に似せたバリアジャケットで、直に女の子座りのままで。
―――え? あれ……えっと……もしかして……僕、なのはちゃんに膝枕されてた?
僕が今立っている位置、先ほど感じられたぬくもり、なのはちゃんの据わり方。それらを総合して考えれば、先ほどまで、僕がどのような格好で寝ていたか想像はつく。そこにどこか気恥ずかしさを感じてしまう。
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