28,月夜の下で
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《旋風》のクロウなら。
私とはもともと違う世界にいたクロウなら。
「ねぇ、クロウ。何処かへ逃げよ」
「逃げるって、何から?」
「攻略から、月夜の黒猫団から……SAOから」
クロウの目が一瞬だけ開く。瞳孔から幾つもの光が宿り、ゆっくりと収束していった。
「――ああ。そりゃ、無理だ。逃げられなんてしねぇよ」
自嘲気味にそう、呟いた。
「でも、このままじゃ死んじゃうよ。わたし、死ぬの怖いよ。クロウだって、怖いから攻略組から逃げたんじゃないの?」
私の叫びは暗闇の中に溶けていく。
今度こそ、目の前の目は大きく剥かれた。ギュッと結ばれていた口がユックリと開かれる。
「――どうして、それを?」
「たまたま聞こえちゃったの。キリトとクロウが話すとこ」
そうか。そう言ったきり、クロウは頭を垂れて動かなくなった。
私はもう止まらなかった。
怖い、その一言を口に出した瞬間、私の中の何かが音を立てて崩れ落ちただと思う。
――ねぇ、どうしてこうなったの?
――なんでゲームから出られないの?
――どうしてゲームなのに本当に死んじゃうの?
――茅場って人は、こんなことをして何の得があるの?
震える声は抑えられないし、嗚咽で上手く喋れない。
それでもひたすらに私は世界を呪い続けた。
ずっと溜まっていた言葉を吐き出している間、クロウは一言も喋らなかった。
私の嗚咽が収まるまで、隣でじっと待ってくれた。
「――俺は「頑張れ」とか「逃げるな」なんて無責任な言葉はかけられない。頑張ってどうにもならないことも、逃げていい場面もあると思う」
定型文化された2つの言葉が目の前で無くなって、私の涙は一瞬だけ止まった。
クロウの顔はいつに無く真剣で、それ以上の表情は微妙な表現の出来ないこの世界では読み取れない。
「だけどな、ただ生きるだけで何もしなきゃ、そりゃ死んだも一緒だ。サチは死にたくないのか生きたいのか、どっちだ?」
「私は――」
答えるまでもないよ。
出会えた奇跡が絶望に変わる世界。
現実では知らない人と友達になって、そして死んじゃったこの世界。
死にたくないと願い続けた一年。
恐い思いだけして、死なないことだけ考えてきた。
私の答えを待つことはなく、クロウはゆっくりと立ち上がった。
薄暗い橋の下で、その表情は霞んでいく。
「俺はさ、死んでもいいと思ってたから何も恐くなかった」
「ぇ?」
それは、まるで理解できぬ言葉。
乾いた笑い声が頭の上から降ってくる。
「けど、いざ死ぬときになったら俺のために死のうとするバカがいたんだ。しかも、アイツが死にかけたってのに、口から出てくるのは「俺が無事で良かった」だ。フザケてるにも程がある」
「――その人って、大事
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