暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアート・オンライン 〜無刀の冒険者〜
SAO編
episode6 風踊り、光舞う2
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 アスナの周囲を全開の敏捷値で駆け回り、その体がぼやけ、いくつもに分身する。

 シドの、最後の手段。それを感じたアスナが、剣をしっかりと握りなおす。流れる涙をそのままに、凛とした意志を宿した表情で前を向く。純白のエフェクトフラッシュを纏って激しく輝きだす細剣。放つ技は、アスナの極めた『細剣』スキルの、さらにその中でも最速を誇る技の一つ、単発刺突技、《スターシュート》。

 同時に、周囲の幻影のシド達の右手が、一斉に赤く輝きだす。指先を揃えたその貫手の構えは、『体術』スキル、《エンブレイサー》。『旋風』の名に恥じない速度で走りながらも体を限界まで捻じり、矢を打ち出すかのように力を溜めて。

 二人の視線が、交錯。
 直後、二人の必殺の一撃が互いを襲う。

 「やああああっ!!!」
 「おおおおおっ!!!」

 裂帛の気合。
 影が、止まる。踊る様に舞い続けた二人の体が、その動きを止める。 


 「……っ…」

 そして、シドの体が、ぐったりと脱力した。

 入ったのは、アスナの、《スターシュート》だった。その一撃は彼の胸の中央を、深々と貫いていた。対する彼の貫手は、アスナの首筋を掠めるに留まっていた。と、シドのHPが、一気に減少していく。表示される、ウィナーの表示。

 「っ! リズ、回復を!」
 「あっ、ひ、ヒール、シド!」

 それを見たアスナが叫び、リズベットが慌てて回復結晶を使う。シドのHPが急回復していくが、その精神的疲労は相当のものだったようで、そのままがっくりと膝をついて崩れ落ちるシド。そんな彼を、アスナとリズベットが二人で支える。

 「…ありがとう、『閃光』…ありがとう、リズベット…」

 疲労で落ちそうになる意識で、けれどもしっかりとシドが告げる。

 「…頑張るよ…俺、もう一度…。リズベット、ごめんな…俺のために、オレンジにしちまって…」
 「…ん、そんなこといーって。これでもマスターメイサーよ、信頼回復クエくらいなんでもないわ」
 「だいじょうぶ! リズのお店には私がちゃんとしばらく閉店の張り紙しとくよ」

 震えながらの言葉が、そんな些細なことだったことに二人の少女が顔を見合わせ、クスリと笑う。

 保護コードの無い場所でシドを引っぱたいたせいで、リズベットの表示が犯罪者(オレンジ)に変わっていたのだ。普通(グリーン)に戻すには異常に面倒くさい信頼回復クエストを受ける必要があるが、二人にとってそんなことは本当に「些細なこと」だった。

 二人の笑顔に、シドが弱弱しく、けれども確かな意志をこめて笑い。

 「ありがとう…。少し眠ったら、行くよ。よろしく、な。リズベット…手甲、ありがとう」

 ゆっくりと、その目を閉じた。



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