第二幕その一
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「異郷で君と出会うなんて」
「これこそ神の御導きね」
「そうだね。けれど」
リンドーロの顔は晴れはしなかった。
「これからどうすればいいかな」
「これから?」
「だってさ、ここはアルジェだ」
彼は言う。
「僕達は奴隷なんだよ」
「そうね」
「そうねって」
平然とした様子のイザベッラに不安を覚えた。
「奴隷だから」
「かといってムスリムになるわけにもいかないでしょ」
「それはね」
こくりと頷いた。
「問題外だ。そうしたらそれこそ僕達は無理矢理違う相手と結婚だ」
「まあ実際にはないでしょうけど」
イザベッラもムスタファのことには気付いていたのだ。
「けれど早くイタリアに帰らないと」
「うん」
「こんなところにいたら結婚なんて夢のまた夢」
「折角お互いの両親を説き伏せたのに」
「さもないと全てが水の泡よ」
彼等にも悩みの種はあったのだ。どうやってここを抜け出して結婚するかだ。
「まあ焦ることはないわ」
イザベッラは言った。
「丁度貴方と私は今は一緒にいられるし」
「うん」
「落ち着いて考えましょう、どうするべきかね」
「わかったよ。じゃあ」
「ええ、またね」
二人は別れた。そしてそれぞれの言いつけられている仕事に戻る。宮殿の庭ではムスタファがまたしても鷹揚な動作で従者達に囲まれていた。
「そこのイタリア人」
「は、はい」
おどおどとしているタッデオに声をかけた。
「そなた、中々トルコのことに詳しいな」
「まあ商人でしたので」
彼はおどおどしながらそれに答えた。
「それで」
「左様か」
「はい」
そして頷いた。
「よし、ではわかった」
「わかったとは」
「そなたを侍従長に命じる」
「えっ!?」
思いも寄らぬ取立てである。それを言い渡されたタッデオは目が点になった。
「今何と」
「だから侍従長にするというのじゃ。丁度前のがムスリムになって空席だったしな」
「ですが侍従長などとは」
「まずそなたはアラビア語が堪能じゃ」
「はあ」
「そしてイタリア人だ。これだけで充分じゃ」
「それで侍従長に」
「わしは別にキリスト教徒でもイタリア人でもよいのじゃ」
ムスタファはにこにこと笑いながら述べた。
「剣を向けない限りはな」
「そうなのですか」
「そなたは別に剣も持ってはおらぬ、それでじゃ」
彼は言う。
「侍従長に命じる。わしの通訳もやれ」
「しかし旦那様はイタリア語が話せるではありませんか」
「確かにな」
しかしムスタファはここで難しい顔をした。
「だがこれはヴェネツィアの言葉じゃろう?」
「ええ、まあ」
「他の方言は知らぬのじゃ。この前ジェノヴァの者が来てもわからんかったのじゃ」
「そうなのですか」
「そうした者
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