参ノ巻
守るべきもの
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「あんたなんか、しねばよかったのよ」
自分の掌さえ見えない暗闇の中、声だけが響く。
「あんたなんか、きらい。とっていくんだもの。あとからきたくせに。わたしと、あのひとは、うまれたときからいっしょだったのに。あんたなんかが、きたから」
憎々しげにそう言った後、謡うかの如く、言う。
「ころして、あげる」
うっとりと、蜜が広がっていくように。
「ころしてあげる」
頭、いった…。
あたしはじんじんと痛む頭を押さえながら顰めっ面で、しゃくしゃくと雪を踏みながら佐々家の周りを散歩していた。
秋頃までは、胸を引き裂かれるような痛みを伴う夢を見ていた。起きた時には夢の内容は忘れているけれど、とても辛くて、苦しかったことだけ覚えている、そんな夢。でもいつの間にか見なくなった。それに関しては正直少しほっとしている。何を見たか思い出せないのに、ただ涙が流れるなんて、あまり気分の良いものじゃないから。
そして今日、久しぶりに夢を見たと思ったら、あんな…。
女の声が、至極嬉しそうにあたしを殺すと言いつのる夢だった。
所詮夢の話だけど。おかげで寝不足だ。ああ眠い。
「もし」
あたしは急に話しかけられて、驚いて顔を上げた。
見上げた先には男が居た。
男は少し頬が痩けていて、幸薄そうな印象だ。
「あ、はい?」
「失礼だが、佐々の姫であられるか?お伺いしたいことがあるのだが」
「いいえ滅相もございません。私はこちらの炊女でございます」
あたしは説明するのも面倒なので飯炊き女だと謙った。
男はあたしを上から下までさっと見ると、腕を組んで顎に手を当てた。
「それにしては良いものを着ているな」
「お優しい末の姫さまから譲って頂いたものでございます。こちらにはよくして頂いておりますので。お侍さまは、見たところただ通りかかったのでもない御様子。佐々家になにか御用でもございますか?」
「その末の姫に用がある。『三浦が会いに来た』とでも伝えてもらえまいか。なに、ただでとは言わん」
そわそわしながら男はあたしの手にいくらか握らせた。
はーん。
いいところの姫にはこういう男は多い。姫の身近にいるものを買収して姫の元へ案内させたりす
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