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王道を走れば:幻想にて
第四章、その7の3:盗賊包囲
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 ひうと吹き抜く風が叢をゆるやかに撫でた。鼻が微かにを覚えたのは、腐り気味で饐えている、血の匂いだ。その匂いの元を辿れば、燻った煙を立てている一つの村があった。嘗ての住民を支配して今は盗賊の残党が蔓延っており、まるで抵抗の意思を表示するかのように松明に炎を燈しているのだ。その炎は、秋の爽やかな青空の下でもよく見えた。

「・・・ありゃそう簡単に降伏しないでしょうね」
「だろうな。まったくもって度し難い。結果はわかりきっているだろうに、何故彼らはそれを選ばんのだ」
「今まで自分本位で結末を選べていたからですよ、きっと。選ばれる側になるのは虚栄心に触るのでは?」

 村を半包囲するエルフの軍勢、凡そ六百弱の兵員の中に慧卓とアリッサはいた。先の野戦にて百人近くの死傷者が出たせいで、本来なら行えた筈の村の完全包囲が出来ないが、それでも盗賊らを威圧し圧倒するのに数が足りないという事は有り得ない。寧ろ止めを刺すのに充分な数といえよう。泰然と陣を形成して村を睨む様は、素人の寄せ集めという内実の割には勇壮である。
 命令さえば軍勢は動き出し盗賊らを攻撃するのであろうが、未だ軍は静観を保ち続けている。その理由が解しかねる慧卓は、傍に控えていた私兵団団長、チャイ=ギィの銀毛の美顔を見遣った。

「攻撃はしないのですか?」
「他の賢人方は御認めになるでしょうが、ソ=ギィ様がそれを認めません。まだ村人に、生き残りがいるかもしれませんから」
「・・・言ってはなんだが、生温いと思うぞ。あの賊共が人質にまともな待遇を遇すると思うか?」
「分かっては御座います、調停官様。ですがここはどうか暫しお待ちを。今、賢人の方々が協議をされていますゆえ」
「・・・長くは待てないぞ」
「というより、持ちませんね、あの様子では」

 慧卓の指摘に反応するかのように、村からつんざめくような悲鳴が聞こえてきた。遠くからでも耳に入るくらいの高調子の女性の悲鳴だ。村では今でも盗賊による虐殺が行われているのだろう。

「領民が惜しいというのは、分からないでもないが・・・」

 忍耐にも限度がある、とアリッサは言いたいのだろうか。チャイも彼女に同意するかのように表情を厳しくさせているが、依然として攻撃の命令が下されないのは事実であった。歯痒い思いを感じながら三者は村を見詰めている。
 一方で村中においては、盗賊らに秩序や統率が欠けており、反対に恐怖といった感情が彼らの心を支配していた。完全な優位をたかが一度の野戦で逆転させられた彼らに出来る事といえば、反撃の容易を準備したり、本能に従って人質を陵辱し殺害したり、或いは死ぬ覚悟を整える事だけであった。
 盗賊を率いる壮年のエルフの男は、荒んだ顔つきとなって必死に使い物となる武器を集めていた。彼に向かって一人の人間の男
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