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王道を走れば:幻想にて
第四章、その7の3:盗賊包囲
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体を起こし、壁に寄り掛かる。私兵団の面々が重たそうに身体を引き摺りながら倉庫内へ雪崩れ込んでいき、顔を大いに歪める男の止めを刺した。二階からチャイ=ギィが急ぎ足で駆け下りてきて、慧卓の様子を窺う。 
 視線を返した慧卓は、朧となってふらつく視界の中、チャイ=ギィの顔が真っ赤に火照り、辛そうに砂色の瞳に涙を貯めているのを捉えた。

「ち、チャイ=ギィ様・・・どうしました、目がとろんってしてますけど」
「そ、その・・・あいつが撒いた薬のせいでっ、身体が・・・」
「実は俺も・・・頭が凄くぼぉっとして・・・すみません、ちょっと寝そう・・・」
「ケイタク様っ!」
「ケイタク殿、無事か!?」

 最後まで身体が重たいまま、慧卓はふらっと床に倒れかける。意識が落ちる直前、慧卓はチャイ=ギィの悲鳴と同時に、アリッサの声を耳にした。
 かくしてエルフの東部を襲った盗賊の一団は、交戦前に元の陣地へ返された一部の者を除き、賢人達の連合軍と王国の騎士達によって一人残らず殲滅された。
 

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 夕焼け小焼けの紅の空を映すように、川面は金色の光を放っていた。ゆらゆらと静かに流れる川に向かって垂らされていた一本の釣り糸が、軽々と引き上げられた。針に刺さっていたのは目的の小魚ではなく唯の枯葉だと知ると、少年はいたく不満げにそれを千切り取り、再び川面に糸を垂らす。
 彼の下に、一人の少年がやってきた。子供ではあるが、エルフの特徴である長い耳が既に備わっている。

「・・・おい、釣れたか?」
「釣れてない。時々草が引っ掛かるだけだ」

 不満げな言葉が返って来て、少年は軽く溜息を吐いた。

「これじゃ何時まで経っても飯にならねぇぞ」
「知ってる。でも仕方ないだろ、釣れないんだから」
「早くしろよ。俺またあの焼き魚、食べたいんだからさ」
「だよなぁ。・・・美味かったよな、あれ」
 
 少年らが指すのは、以前調停官の若い人間が作ってくれた、焼き魚の事である。火がよく通った魚の身は、少年らの口を蕩けさせるに充分なほどの美味であり、彼らの記憶に深く刻まれていたのだ。調理法が簡単なため自分らで魚を釣ろうとしているのだが、中々上手くいくものではなかった。
 暇潰しがてら、少年の一人が思い出したように言う。

「そういや聞いたか?もうすぐ討伐隊が帰ってくるんだって」
「・・・マジ?」
「うん。衛兵さんが教えてくれた。後半月もしない内に帰るんだとさ。・・・流石に、どんな格好で帰ってくるかは教えてくれなかったけど」
「格好って何さ。行きも帰りも同じ服でしょ?」
「ごめん、ちょっと言い間違えた。どんな状態で、っていうのが正しかった」

 両者の間に、俄かに沈黙が流れた。釣り糸を垂らす少年が硬い表情となっ
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