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アルジェのイタリア女
第一幕その六
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申し訳ありません」
 それに謝りながらタッデオに声をかける。
「今は静かにしていてね」
「ああ、済まない」
 足を押さえてヒイヒイ言いながらそれに応える。タッデオにとっては迂闊なことであったが災難でもあった。
「まさか」
 リンドーロの方も気付いていた。
「イザベッラが」
「リンドーロが」
 二人は顔を見合わせている。ムスタファはエルヴィーラを見て得意になっており、エルヴィーラは嘆いて俯いているのでそれには気付かない。だがズルマとハーリーは違っていた。
「あら、あの二人」
 最初に気付いたのはズルマであった。
「面白そうね」
「面白そうとは?」
「ほら、見てよ」
 そう言ってイザベッラとリンドーロを指差す。
「何か変な様子よ」
「確かに」
 ハーリーもそれに気付いた。
「知り合いかな」
「リンドーロさんってイタリア出身だったわね」
「ああ、ヴェネツィアさ」
 ハーリーは答えた。
「で、あの二人も」
「ふうん、じゃあ若しかして恋人同士だったのかも」
「まさか」
「世界ってのは狭いわよ」
 否定しようとするハーリーにあえてこう言った。
「それこそ目と鼻の先にあるようなもの」
「同じヴェネツィアだしな」
「そういうことよ」
「まさかこんなところで」
「何て運命の悪戯」
 リンドーロとイザベッラはお互いを見詰め合っていた。
「遠く離れた異郷の地でまた巡り会えるなんて」
「これこそ神様のお導きなのね」
「ううむ、運がいいと言うべきか」
 タッデオはそれを見て一人呟いていた。
「けれど奴隷じゃな。どうしたものか」
「ふふふ、困っておるな」
 ムスタファはムスタファで自分の奥方を見ている。
「さてさて、困った顔も美しい」
「これで私もお終いなのね」
 エルヴィーラは一番自分の世界に入ってしまっていた。他の誰の様子も目に入りはしない。

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