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くらいくらい電子の森に・・・
第十四章
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ン能力を持つMOGMOGが誕生するはず。人間同士のコミュニケーションが希薄な時代だから、それは高い需要が見込める。だから親和欲求へのバイパスは、一種の賭けだった」
一瞬カップから唇を離して、ミルクを流し込んだ。
「これは、とても複雑な欲求なの。誰かと仲良くなれば、その人に認めてほしい、声を掛けてほしい、それに…触れてほしい」
さっきは冷たく切り捨てたのに、焦がれるように遠い目をする。…何なんだろう、この人は。僕まで、またこの人に焦がれてしまいそうになる。
「ビアンキが言ってたよ。姶良を、抱きしめたくなることがありますかって」
柚木が、ぽつりと呟くように言った。その時、何て答えたのか気になったけど、今は聞かないことにする。
「…だから、賭けは失敗だった。複雑な欲求が絡み合う親和欲求だからこそ、『置き換え』の余地があると思ってたの。たとえ触れることが出来なくても、気持ちが通い合うことで満たされるかもしれない、と。親和欲求が満たされなかった時の保険として、収集欲へのバイパスも残しておいたけど、それも無駄だった」
そして長いまつげを伏せて、目を閉じた。
「ビアンキは好きな人と触れ合うことに憧れ、ひたすら姶良との接触に焦がれるようになっていった。そんなことは不可能なのに。…そして、マスターを目の前で殺され、全てを奪われて狂った同胞『リンネ』に触れ、その絶望に飲み込まれた…」
「リンネと接触させなければ、こんなことにはならなかったのか」
紺野さんが、ようやくのように声を絞り出した。顔は髪に隠れて見えない。
「発狂を加速させたのは間違いないけれど、このままだと、いずれこうなっていたわ。…あの子は緩やかにだけど、確実に狂っていった」
「……ビアンキ!」
こんな時なのに笑顔しか思い出せなくて、とめどなく涙が出てきた。
―――酷い。
こんな結末は酷すぎる。
『ご主人さま!』と僕を見るだけで嬉しそうに叫ぶ、ビアンキの声が耳を離れない。あの声は電子の合成音だった。姿も、合成された光の塊に過ぎなかった。

ならばその気持ちも、まがい物だったらよかったのに。

それでビアンキが苦しい思いをしなくて済んだなら、MOGMOGがまがい物でも構わなかった。…狂ったビアンキは今も僕の死に縛り付けられ、繰り返し繰り返し、この惨たらしい悪夢の中をさ迷っている。それは僕の手の届かない、電子の悪夢だ。

――怖くて、苦しいだろう。そんなの、消えてしまうよりも可哀想だ。

「僕に出来ることは、ないの」
「安らかに眠らせてあげるのが、一番だった。もう遅い」
流迦ちゃんは、淡々と事実だけを告げた。そして、自分のノーパソを開き、電源を入れて網膜認証を始めた。
「今回の件は、貴重なデータとして活用させてもらうわ。そのためにも、私はこの件を最後まで見届ける」

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