第一話〜幼き日々の英雄2人〜
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クスクスと笑い声を漏らし、表情を崩すことなく若干意気消沈気味の周瑜に応対する江。
桃蓮は一連の出来事を見てしみじみと感慨にふけっていた。
(あの作られた笑顔とは全く違う、本当の笑顔…。コイツもこんな表情をするようになったのか………)
賊からは人形と呼ばれ、桃蓮たちに保護された後もしばらくは作り笑顔に終始していた江が、その後の人付き合いによって感情を取り戻したことに心から安堵していた。
(…しかしコイツの笑顔は本当に『アイツ』に似ているな…)
脳裏に浮かぶのは友の姿。
しかし彼の者はすでにこの世にはいない。
「母様!」
「ん?」
不意に大きな声が響き、桃蓮の思考を中断させる。
声のした方向に目をやるとそこには頬を膨らませた自身の娘が立っていた。
「どうした、雪蓮」
「江と城を回りたいって言ったのに、母様ったら何も言ってくれないんだもの」
「ああ、それはすまない。別に城を回るくらいなら構わないぞ。…それより、もう真名を交換したのか」
雪蓮が江のことを真名で呼んでいたことに気づく桃蓮。
「だって母様が紹介したほどの人物だし、それに実際に会ってみても信頼できると思ったから。冥琳だって真名を許したわよ?」
「…つまりは勘か?」
「ええ」
「お前はつくづく私の娘だよ」
桃蓮はやれやれと首を横に振る。
自身の勘が娘に脈々と受け継がれていることに少しばかり複雑な感情を抱く。桃蓮にとって勘は信用できるが、信用し過ぎてもいけないもの。
以前にそれで命の危機に直面したのだ。娘には二の轍を踏んでもらいたくはない。
「母様の了解も得たし、行くわよ。江」
母の心配をよそに雪蓮は嬉々として江の手を引っ張り、部屋の外へと駆けだす。
冥琳は完全にその流れに乗り遅れて、しばらくして大声で雪蓮の名を呼びながら追いかけていった。
「…それにしてもうちの娘はともかく、冥琳までもがこうも早く真名を許すとはな」
江には人を引き付ける何かが備わっている。
それに加えて知謀の才を有し、武に至っては自分と同等。
「馬鹿娘と同い年だっていうのに…きっと天に愛されてるのだろうな」
いや
「今までの不幸を乗り越えるために与えたのかも知れない」
桃蓮にしては、らしくない天命という考え。
しかしそれほどまでに江の存在は異常だった。
「いずれにせよ、江は必ず呉の大黒柱となるだろう。しっかり育ててやらねばな」
そして視線を、中庭をかけていく3人に移す。
そこにいる江は先ほどと同様に屈託のない笑顔をしていた。
――
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