第60話 影の月
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ち、誰にも負けない誇りと力を持ちながら、たった一人の仲間を救う事が出来ない。
何と歯痒い事か。
「ち、ちびっ子ぉ……すまねぇ! 私の、私のせいでお前がこんな……」
ヴィータは泣きながら謝罪した。幾ら謝ろうと帰ってくる言葉はない。それでも謝りたいのだ。
でなければ気が治まらないのだ。
「シャマル、このままだと高町は後どれ位保つんだ?」
「これだけの深い傷を負ってしまったのだから。もうそう長くは保たないわ……」
「そうか……」
静かに了解する。
突如、シグナムは腰に挿してあったレヴァンティンを抜き放った。月夜に照らされて刀身が光り輝く。
その刀身を真下に居るなのはに向けだした。
「何する気だよ?」
「これ以上苦しませるのは残酷だろう。どうせ助からないのなら、一思いに楽にさせてやる。それが、仲間として出来るたった一つの情けだ」
「止めろ! まだ死んだと決まった訳じゃねぇだろう!」
「ならば、ならばお前はこのままこいつが死ぬその時まで苦しみ続けろと言うのか?」
その言葉を聞き、ヴィータは黙り込んだ。このまま助けられないのであれば、なのはに待っているのは死に至るまで激痛に苦しむ事になる。そんな光景を見ている事など出来ない。
どうせ助からないと言うのならば、いっそ楽にしてやろう。それがシグナムに出来るたった一つの情けでもあったのだ。
「業は私が背負う。恨むなら、私を恨め……高町なのは!」
最後に名前を述べ、刀身を真っ直ぐ振り下ろす。その先には幼い彼女の心臓があった。其処を一突きすれば、今の弱っているなのはならばすぐにでも昇天出来る筈だ。
だが、突き刺さったのはそんななのはの心臓から遠くずれた下のベンチであった。彼女の体には全く突き刺さっていない。
「シグナム……」
一同が彼女の名を呼んだ。そんな彼等の前で、シグナムは泣いていたのだ。情けない! 今まで多くの命を奪ってきた身でありながら、今此処に来て躊躇いを感じると言うのか?
シグナムは自分自身を毒づいた。此処でこんな悠長な事をしている間にも、なのはは苦しみ続けている。早く彼女を楽にさせてやりたい。にも関わらず、そんな彼女の両手は全く言う事を聞いてはくれなかった。
「情けない……今まで散々多くの命を奪ってきたと言うのに……今になって躊躇いを感じるとは」
「そう自分を責めるな」
自分自身を罵倒するシグナムの肩にそっとザフィーラが手を置いた。皆同じ気持ちなのだ。
仮に自分がシグナムの立場であったら同じように絶対に彼女を殺せないだろう。
「シグナム、刀を貸してくれ。あんたに出来ないんだったらあたしが……」
「待って!」
突如、シャマルが手を差して止める。何事かと思っていた一同をシャマルが
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