参ノ巻
守るべきもの
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いる。別れの寂しさに。
「行こう」
速穂児に背を押され、あたしは歩き出した。
「村雨を出れば、おまえは知らなくて良いことまで知る」
「覚悟の上です」
「バカな、やつだ」
「若。本当の敵は、前田ではない。もう若は、村雨の主です。感情に目を曇らせることなく、強くなってください。何者にも負けない程」
千集がなにか言ったが、もうこちらには聞こえなかった。
速穂児の歩みが、知らず大きくなる。
あたしは振り返った。遠くなる千集の背中。小さくなっていくそれは、萎れた老人のようだった。
それは、変化という濁流に翻弄され呑み込まれる村雨家の衰退を思わせた。
「ねぇ」
「何も言うな、瑠螺蔚。俺が自分で決めたことだ。この村雨で生きてきた18年間、俺は常に全てのことに流され従ってきた。今初めて俺は自分の足で歩いているんだ。だから、何も言うな」
「…うん」
この男も、きっと泣いている。
涙を流して泣くのではなく、心が啼いている。
速穂児は自由を得るために大切にしていたものを手放す覚悟を決めたのだ。
不器用だ。男の人は。
あたしは、前を向いたまま速穂児の横にそっと寄り添った。
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