第二幕その四
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第二幕その四
だがグリゴーリィはそれ程飲んではいない。身体を温める程度なのかチビリ、チビリとやるだけであった。そしておかみに顔を向けて尋ねてきた。
「あの」
「何ですかな」
「リトアニアまではもうすぐですよね」
「はい」
おかみはにこりと笑って答えた。
「今から歩いたら晩までには着けますよ」
「そうですか」
それを聞いて少しホッとした様な顔になった。だがそれは一瞬であった。
「関所で時間を取られるかも知れませんがね」
「えっ、関所」
それを聞いて顔がまた白くなった。
「関所があるんですか」
「はい、何かモスクワから誰か逃げているそうで」
「まさか」
顔に不安げな色が漂いはじめる。
「おかみさん」
彼が不安な顔をしている間もワルアラームとミサイールは酒を楽しんでいた。そしておかみにも酒を勧める。
「もう一曲歌いましょうか」
「ああ、もういいですよ」
おかみは笑ってこう応えた。
「一曲で。充分楽しみました」
「そうですか。それじゃあ」
「わし等は引き続き酒を楽しみましょう」
「はい、ごゆっくり」
こうして二人はまた飲みはじめた。相変わらず酒を水の様に飲んでいる。酒はとにかくあるだけ、飲めるだけ飲む。ロシア人に今でもある酒の愛し方であった。
「関所ですか」
グリゴーリィはもう一度尋ねた。
「ええ、結構大きいのがね。あるんですよ」
「そこを通らなければ駄目ですよね」
「リトアニアに行くことですか?」
「はい。道はそれしかないですよね」
「いやいや、それが違うんですよ」
だがおかみはここで笑ってこう言った。
「違うって?」
「あんなのね、只の飾りなんですよ」
関所のことをさして笑っていた。
「あんなとこ無視しても構いません」
「そうなんですか」
「そうですよ。だって道は一つじゃありませんし」
「一つじゃないって?」
グリゴーリィはその言葉に身を乗り出した。
「他に道があるんですか?」
「勿論ですよ」
おかみは答えた。
「こっから左に折れて礼拝堂から。そして小川の側の道を行ってね。そこからはもう誰でも行けますよ」
「そうなんですか」
「あれはお役人が自分達の懐を暖める為の関所ですから。あたし等は近寄りもしませんよ」
そして笑いながらこう言った。
「今ここにいる役人はがめつくてね」
ロシアでは昔から役人が大きな顔をしていた。ロマノフ王朝やソ連時代だけではない。もっともこれもまたどの国においても言えることであったが。
「何も知らない旅人を待ち構えて何だかんだと言ってはお金をせしめるんですよ。本当にがめつくてね」
「はあ」
「それに馬を使って足が速いから。ほら」
言っている側から馬に乗った黒い服の男達がやって来た。
「見回りで
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