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蒼き夢の果てに
第5章 契約
第57話 ハルケギニアの夏休み・宴の夜
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でる音の具合を確認中の俺をタバサが、その晴れ渡った冬の氷空に等しい瞳に映して静かに首肯く。これは、何時演奏を初めても良いと言う合図。そして、それと同時にシルフを起動させ、外……つまり、酒場内の雑音のカットを行う俺。但し、タバサの歌声と、俺のギターの音色は外。つまり、酒場の従業員や客たちに聞こえるようにする為の結界を施す。
 酒場内の客層は……。男性が九割。そして、ここトリステインの世情から想像が付くように、軍人が多く居る事から考えると、これから歌う歌は少し問題が有るのですが……。

 もっとも、それも練習ですか。

 再び、軽く弦を爪弾いてみる。
 刹那。周りのテーブルの雰囲気が少し変わった。確かに、それまで会話を行っていた少女たちが、突然、楽器を奏で始めたのですから、興味を持たれて当然なのですが。

 非音楽的な喧騒と雑音に支配された世界(店内)に、ゆっくりと波紋を広げて行くが如き雰囲気で拡散して行く前奏。アコーステッィック・ギターの優しい音色が旋律を奏で、高く、そして低く、情感を伴いつつ酒場内を満たせて行く。
 次の瞬間。タバサが歌を紡ぎ始めた。普段の彼女とは違う、情感豊かに響く歌声は聞く者の耳に心地良く届き……。
 そしてそれは、ひとつの物語を画き上げ始めた。この国に昔から存在する昔話を……。



 必ず戻って来る。青年はそう優しく告げて、扉から出て行った。
 黙って、ただ彼の背中を見送った少女。
 春が過ぎ、夏が過ぎ、秋が過ぎ。再び、出会った季節が巡り来る。

 誰の元にも訪れるように、少女の元にも夜の帳がそっと降りる。
 どんなに離れていたとしても、一日で一度だけ出会う事が許された短い逢瀬の時。
 懐かしい思い出の中の彼は、何時でも、そう笑っていた。

 彼の名を呼んだ瞬間、少女は目を覚ました。
 短い逢瀬の別れの時。
 しかし、その日の朝。自らの右手が握りしめていた光を見つけた瞬間、自らの元に別れた恋人が戻って来た事を知る。
 そして、もう二度と巡り合う事が出来ない事も……。

 彼女は今も眠り続ける。
 消えた恋の背中に再び出会うその日まで。
 彼の残した蒼い宝石を抱きしめたままで……。



 眠る者の表情で余韻を表現する蒼き少女。その姿は、待ち続ける為に眠る事を選んだ少女の為に神に祈りを捧げる聖女そのもの。

 そして………………。
 それまで、猥雑な騒ぎに満ちていた酒場に、夜明け前の如き静寂が広がる。
 しかし、次の瞬間。一瞬の静寂が次なる喧騒の為の助走に過ぎなかった事が証明された。

 拍手。喝采。賞賛。表現方法は人それぞれ。しかし、酒場内の評価は概ね好評と言う感じですか。
 今回は、俺のギターに因る伴奏に関しては、一切の霊力を籠めるようなマネは為して居
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