第二幕その一
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じめた。
「急な階段を。そして塔の上に昇っていました」
「ふむ」
ピーメンはそれを聞きながら思索に入った。
「そこからモスクワを見下ろすのです。ですが」
ここで声が震えた。
「下の広場にいる民衆が私を笑うのです」
「笑う」
「はい、嘲笑うのです。それに心を砕かれた私は塔から落ち、そして・・・・・・」
なおも言った。
「そこで目が覚めるのです。これは一体どういうことでしょうか」
「若い血が騒いでいるのだな」
ピーメンは話を聞き終えてこう言った。そしてグリゴーリィを温かい目で見た。
「わしもかってはそうだった」
「先生も」
「うむ、かつては酒宴や戦場に身を置いたものだ。若い愚かな日々の話じゃ」
「そんなことがあったのですか」
グリゴーリィはそれを聞いて心を熱くさせた。
「カザンやリトアニアで戦い、そしてあの雷帝の巨大な宮殿を御覧になられたのですね」
「うむ、かってはな」
彼は答えた。
「素晴らしい。それに対して私は幼い頃より僧房におります」
「それでよいのだ」
だが師はここで弟子を宥めてきた。
「よいのですか」
「そうだ。罪深き俗世を若いうちに捨てたことはよいことなのだ。豪奢な生活や女共の甘い声はこの世の真実ではないのだ」
「真実ではない」
「左様、皇帝といえどその黄金色の服の下は我々と変わりはしない。同じ人間だ」
「同じなのですか」
「かつてここに皇帝が来られたことがある」
「皇帝が」
その答えはまたかなり衝撃的なものであった。その皇帝とは。
「イワン雷帝がな」
「何と」
グリゴーリィはそれを聞いて驚きを隠せなかった。雷帝が修道院を尋ねて来るなど。彼には想像もできなかったことであった。
「あの方は悩んでおられた」
「雷帝がですか」
「そうじゃ。穏やかな言葉を述べられ悔恨の涙を流しておられた。声を立てて啼いておられたな」
「まさかその様な」
信じられない話であった。だがそれ以上に彼はピーメンが嘘をつくような者ではないことを知っていた。だからこそその言葉が現実のものとは思えなかったのだ。
「次のフェオードル陛下は宮殿をそのまま祈祷庵に変えられてしまった」
「それは聞いたことがあります」
彼は病弱で信心深い皇帝であった。だからこそそうしたのであった。
「その最後も立派であった。宮殿は芳しい香りに包まれてな」
「それを今まで書いておられたのですね」
「内緒じゃがな」
彼は微笑みながらそれに応えた。
「清らかな顔でな。天に旅立たれた」
「まことによい話です」
「今に比べれば。少し前の話だというのにもう遠い昔のことじゃ」
「確かに遠い昔の話の様ですね」
グレゴーリィは答えた。
「今の時代は。何処か暗いです」
「その理由もわかっている」
ピ
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