第一幕その四
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第一幕その四
「総主教の差し金か」
彼には全てがわかっていた。民衆の本心が虚ろなことも全ては芝居であることも。
何もかもわかっていた。そしてこれを拒むことができないのもわかっていた。
「仕方のないことか」
彼はまた呟いた。
「これも神の思し召しというのなら。従おう」
そして着替えに向かった。だがその途中の廊下でもまだ呟いていた。
「我が魂は痛む」
半ば心の中で呟いた。
「不吉な予感が得体の知れぬ恐怖となって心を締め付ける。どういうことなのか」
問う。だが返事はなかった。
「神の御加護を祈るばかりだが。だが神は私に何を与えて下さるのだろうか」
ふと考える。だが当然ながら返事はない。
「私には自負がある」
彼はまた呟いた。
「今までこの国を支えてきたのは私だ。それは成功を収めている」
確かに彼はロシアの為に尽力してきた。大貴族を抑え、タタール達を退けた。そして商工業者を保護し、小貴族達を取り立てた。農奴制ではあるが農村を整理し、宗教制度も確立された。彼は雷帝以上にロシアの為に動いていると言って
よかった。
「そしてそれはこれからも続く。ロシアは私の手で繁栄するのだ」
彼は自分にも神にも誓っていた。そして部屋に入る。そこで着替える為であった。皇帝の服に。
「まだかな」
外で待つ民衆達はふと呟いた。
「新しい皇帝様が出て来るのは」
「もう少しじゃないのか」
その中の一人が言った。
「まあ待とうぜ」
「そうだな」
「皆さん」
ここで総主教が出て来た。ボリスの盟友であり今回の即位の仕掛け人でもある。民衆の嘆願は彼がシナリオを書いたものであり一連の動きの演出も彼であった。その彼が姿を現わしたのである。
「総主教様だ」
「何だろう」
だが民衆はそれには気付いていない。たばぼんやりと彼を見上げただけであった。
「もうすぐ陛下が来られます」
彼はにこやかな顔でこう言った。
「陛下?」
「だから皇帝のことだって」
また誰かと誰かの話がした。
「今は黙ってろ、いいな」
「わかったよ、それじゃあ」
彼等は黙った。そしてまた総主教を見上げた。
「暫くお待ち下さい。もうすぐ来られますので」
「総主教」
後ろから彼を呼ぶ声がした。
「来られたか」
「はい、今しがた。黄金色の服を着られて」
「よし、ここにお通ししろ」
「わかりました」
彼はそれを受けて姿を消した。そしてそれと入れ替わりに多くの者を引き連れた大柄な立派な髭を持つ男が民衆の前に姿を現わした。赤を地として金で飾った豪奢な服を身に纏っている。その頭にはあの王冠がある。言わずと知れたボリスである。今彼は皇帝の服を身に着けて民衆の前に姿を現わしたのであった。
「陛下!」
民衆が叫んだ。
「
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