弐ノ巻
ひろいもの
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「なんですって!?本当に父上が、そんなこと…」
あたしは呆然とつぶやいた。
話を聞いてみれば、こうだった。
なんの気紛れか知らないけど、うちの父上が村雨家の正室に手を出して、しかも村雨の正室がその気になってしまったらしい。
しかし折悪く、村雨家は未亡人になった正室に次の夫を決めた直後だった。一途な正室はどうしても前田家に嫁ぎたいと折角決まった縁談を蹴ろうとしてしまう。
仰天したのは村雨家の実権を握る重鎮や息子達。好いた惚れたじゃ生き残っていけない戦国の世。村雨の正室は言うことを聞かないし、手を出された恨み辛みも相俟ってこうなったら悩みの元凶前田の当主を亡き者にしてやろうと発六郎に命令が下ったらしい。
それにしても…よくそれだけで前田家に手を出そうなどと思ったものだ。言っちゃ悪いけど、前田と村雨は月と鼈ぐらいの石高の差がある。あれ言い過ぎたかな。そこまでいかないとしても、うちが嚔すれば飛んでいくぐらいの差はある。
うちから言わせれば、逆恨みも甚だしいわよ!
「父上はまぁ女好きだ…けど、義母上様がいたからにはそんなに他の女に手を出すようなこともしていないと…思うんだけど。村雨の正室は本当に、相手が前田家の当主だって言ったの?大体何でわかったの?前田と村雨って一切交流ないじゃない」
「忍んできた本人が、はっきりそう言ったらしい」
「そんなの!」
あたしは叫んだ。
「本当に父上だって証拠ないでしょ!?」
「いや、前田家の証を持っていたらしい。それが何かは若が問いただしても頑として口を割らなかったらしいが」
そうなってくるとあたしも「父上じゃない!」と言い張る自信がなくなってくる。今までの所行からして心当たりはなくもないし…。
もし、本当に父上の浮気心が動いて、そんなことをしでかしてしまったのなら。
事が事だけに、今度の今度は許さないわよっ!
「よし刀貸しなさい発六郎。いっぺん殴らなきゃ気が済まないっ!」
「いや真剣で殴ったら即死だと思うが」
「問答無用!」
「それに俺は今刀を持っていない。起きた時にはなかったから、おまえ持っているんだろう?」
「そりゃそうでしょ。それだけのことはしてる自覚ぐらいあるでしょ」
「まぁな。むしろおまえが俺を助けてくれたことすら夢かと思うが」
発六郎はそう言って褥の横に置かれた盆
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