第四幕その四
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「その簒奪者を滅ぼして。お戻り下さい」
「モスクワに、そして玉座に」
「そうです。では参りますか」
「マリーナの場所に」
「はい」
こうして二人は部屋を出た。そしてまたマリーナの部屋に向かうのであった。
「では私はこれで」
ランゴーニはマリーナの部屋の扉の前まで来るとグレゴーリィに別れを告げた。
「ごゆっくり」
「うむ」
グレゴーリィは鷹揚に頷くと彼を見送り目の前にある扉を開けた。
扉を開けると花の香りがした。香水のものである。そして部屋の中は紅を基調としており女らしい雰囲気があった。だがその紅は同時に彼女の心も表わしていた。しかしグレゴーリィにはそれは目には入らなかった。
「マリーナ」
彼は熱い声でマリーナの名を口にした。するとそこに彼女がいた。
「皇子」
マリーナは晴れやかな顔を彼に向けて来た。
「わざわざおいで下さったのですね」
「貴女に会う為なら」
彼は言った。
「例え何処でも」
「嬉しい御言葉」
彼女はこの時グレゴーリィの顔に愛とは全く別のものを見ていた。これに対してグレゴーリィはマリーナの顔に同時に二つのものを見ていた。
一つは野望、そしてももう一つは愛。彼とマリーナの違いはそこであった。
「マリーナ」
「モスクワへ行ったら何を為されますか?」
「!?」
愛の言葉を語ろうとしたところでマリーナは問うてきた。グレゴーリィはそれを受けて言葉を止めた。
「何を?」
「ロシア女を愛されるのですか?あの大柄で太った女達を」
「馬鹿な」
グレゴーリィは首を横に振ってそれを否定した。
「何故私があの眉の太い毛深い女達を」
「お嫌ですのね」
「そうだ。私は髭の生える女は好きではない」
ここまで言った。
「私には貴女だけだ」
そしてまたマリーナを見据えた。
「貴女だけなのだ」
「けれど貴女は私しか見ていない」
「どういうことだ」
「私が見ているのはロシアの玉座と皇帝の赤と金の衣、そして王冠」
「無論それも望んでいる」
彼は言い切った。
「あれは本来私のものだったのだ。そしてそれを奪い返すまで」
半ば自分が本物の皇子の様に思えてきていた。野心の為か現実とそうではないものの区別がつかないようになってきていたのかも知れない。
「奪い返すのですね」
「そうだ」
そしてまた言い切った。
「この手に。明朝出陣する」
「進む場所は」
「モスクワだ。他に何処があろうか」
グレゴーリィは言う。
「ここに集う将達と共に。運命が定めた父の玉座まで私は行く」
「では私は」
「共に来てくれるか」
グレゴーリィは問うた。
「はい」
断る筈もなかった。マリーナは即座に頷いた。
「勿論でございます」
「よし。ならばよい」
グレゴーリィは
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