第四幕その三
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第四幕その三
この頃グレゴーリィは客人としてこの城にいた。彼は今まで着たこともない絹の服に身を纏い、贅沢な酒や料理を楽しみ、舞踏や演劇を目にしていた。そしてそれに満足を覚えていた。
「これが貴族の暮らしなのか」
彼は青を基調とした絹の服を着て自分の部屋にいた。ロシアのそれとは違い細かく、豪奢な装飾品があちらこちらにある。プラハで造られたというガラス細工の人形に目をやっていた。
「ロシアにはこんなものはなかった」
その人形をうっとりと眺めながら呟く。
「ずっとここにいるのも悪くはないかもな。そして」
マリーナのことが頭に浮かんだ。
「彼女と一緒になって。ポーランドに住むか」
ロシアを出る時にあった。野心はもう忘れようとしていた。満ち足りた生活がそうさせていた。そういう意味で彼は普通の人間であった。だがそれでも野心は完全には消えてはいなかった。彼が気付いていなかったとしても。
そしてそれを思い出させる者達もいた。ランゴーニがまるで影の様に部屋に入って来たのである。
「皇子」
彼は部屋に入ると恭しく頭を垂れた。
「まずは挨拶もせずに入って来た無礼を御許し下さい」
「いや、それはいい」
生活からの余裕であろうか。グレゴーリィは穏やかな動作と声でそれを許した。
「今は私も特に用事はないから」
「有り難き御言葉」
「そして何の用かな」
彼は問うた。
「急な用事でも」
「マリーナ様が御呼びです」
「マリーナが」
それを聞いたグリゴーリィの眉がピクリと動いた。
「はい。その託を頼まれまして」
「そうだったのか」
それを聞くとさらに興味が沸いてきた。
「そして何と」
「すぐに部屋に来て欲しいと」
「マリーナの部屋へ」
「はい。姫はいつも貴方のことを思っておられます」
そしてここで嘘を言った。
「夜の静寂の中でも昼の喧騒の中でも。思うことは同じなのです」
「私のこと」
「そうです、ロシアの皇帝であられる貴女に」
「ロシアの皇帝」
だがそれを聞いた時動きが止まった。
「ロシアの皇帝か」
「左様です、陛下」
ランゴーニは恭しく彼の前に跪いた。
「そして無二の宝を手に入れられる御方」
「マリーナを」
「どうされますか、今貴方の手の中には二つの宝があるのです」
ランゴーニは顔を上げて問う。
「どちらも今手に入ろうとしております」
「両方」
言葉の間にどちらかを選ぶことはできない、とあった。少なくともランゴーニはその目でそう語っていた。グリゴーリィもその目を見ていた。邪な光はこの時は消えていた。いや、消していた。
「幸福は。今訪れようとしているのです」
「皇帝としての冠と。愛が」
「そうです、迷うことはないと思いますが」
「わかった」
彼は頷いた
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