第四幕その二
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言う。
「信仰の為に」
「そしてポーランドの為に」
「そう、ポーランドの為でもあります」
彼女の後ろに回り込んで囁いてきた。
「この国を繁栄させる為には」
「ロシアを討つ必要があると」
「いえ、もっとよい方法があるのです」
「それは」
「ロシアを。こちら側に引き込むのですよ」
神父の目が邪に光っていた。それは権力と野望を見る目であり神や信仰を見る目ではなかった。
「ロシアを。神父様がいつも私に仰っていることですね」
「左様」
「最初は驚きましたが。ですが私が皇后となり支配者になるには」
「宜しいかと」
そう告げる。
「ポーランドと私の為にも」
「そうです。カトリックとして、そして」
「ポーランドの傀儡として」
「如何でしょうか。これならばポーランドの利益になります」
「はい」
「あまりにも広大になってしまったロシアは全てを手に入れようとすればポーランドの手に余ります」
ランゴーニはそこまでわかっていた。シベリアに進出し、広大になったロシアを。その為彼はロシアにポーランドの傀儡政権を立てることを考えているのだ。
「貴女こそそれを為されるのに相応しい」
「そしてロシアをカトリックに」
「そうです。如何ですかな。我等にはもう手駒がありますし」
「あの修道院から逃げて来た皇子ですね」
「左様、彼を皇帝にし」
「私は皇后に」
その言葉と共に語る者達の心に何かが宿った。
「ですがあの若者は迷っています」
「ここまできてですか」
「困ったことに。皇帝になれたとしても後がどうなるか、そして野望を前にして」
「情ないことです」
マリーナはこう言って顔を背けさせた。
「野望こそこの世で最も素晴らしきもの」
そしてその身に纏う紅の衣を映えさせた。
「それを前にして迷うことなぞ」
「では貴女のされることはわかっていますな」
「はい」
「その美貌と甘言で彼を篭絡するのです。愛と野心を混ぜさせて」
「ロシアに向かわせる為に」
「理性なぞ無用なこと」
驚くことにこれが神父の言葉である。
「野望により他の者を傷つけはしないかという良心の呵責なぞ迷信深い愚にもつかぬものです」
「全くです」
しかもマリーナも同じ考えであった。満面に笑みを浮かべて頷く。
「おだて、気紛れて見せ、虚言で悩ませる」
「さすれば陥落させるのは容易なこと」
「人の心なぞ城に比べれば弱いもの」
「野望の前には」
「何の意味もないことなのです」
「では姫」
ランゴーニはマリーナの顔を覗き込んできた。
「頼みますぞ」
「はい、ポーランドの為に」
「ローマ=カトリックの為に」
二人のいる世界には瘴気すら漂っていた。邪な野望の瘴気である。そしてそれは緑である筈の庭を何故か黒く染めているように見ら
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