第二十四話
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うと、俺は用意されていたグラスを手に取り水を一口含む。
「我が軍の誉れ高き武勇なれば、城を落とすことも叶いましょうが、その地を永劫守り通せるかと問われた場合、わたしはまたも返答をためらわねばなりません。 なぜなら、彼の地の食糧事情を鑑みるに、駐留した我が軍の兵力を養うには余りにも不足しているからです。
わたしの滞在した村での話になりますが、痩せこけ老婆の如きに見えた女性がいまだ三十の齢にも満たず、知らずに接したわたしは深く彼女を傷つけたと思います。過酷な労働と粗食、それがその不幸な女性を生みだしたのです。
しかし!その女性は生まれたその村で暮らせていただけまだ良かったのです。
すこしでも目鼻立ち整った女児が生まれたら貧しい食事でも優先的にその子に与え、14か15か、それくらいになれば着飾らせて周辺の自由都市、あるいは遠くグランベルやアグストリアにまで娼婦として売りに出し、その子の稼ぎで命を繋ぐ一家というのが多いのですから……
そのような暮らしの中でさえ、人としての心を持ち、卑劣なトラバントに害されそうになったわたしを身を呈して守り続けてくれた領主どのがおられました。
この方はわたしのために、わたしが人質の任務を投げ出した訳でなく、やむなくトラキアの地を離れたのでわたしを罰さないで欲しいと文書を発行してくださいました。己の立場を投げ出してまでです。
決して、残虐で智恵や文明を持たない蛮人ではないのです!」
ここまで話してから俺は一呼吸置き、会場を見渡してから
「かような地を奪い、支配したところで何を得るでしょう? あるとするのならば恨みと我らの悪名のみがトラキアの民の心にいつまでも刻まれるでしょう。 思い出していただきたい、トラバントがミーズを速やかに明け渡したのはミーズ周辺の民からの恨みを買うことを避けた為です。城を得ても保つ力が未だ足りずと思ったのでしょう。それに倣えとは申しません、ただ、いまのわたしの報告から各国の代表皆さまが感じ取る何かがあればと思います」
一礼して俺は着席した。
まだ伝え足りないことは多いだろうが、これでいいだろうか…
万雷の拍手とまでは行かないが議場では拍手が鳴り響いた。
父上の顔を見るのが恐ろしかった。
だが、視線を向けない訳にはいかなかった。
そんなことをしてしまったら、俺はもう二度と……
腕組みをして俯いていた父上は意を決したように一度上を見上げてから拍手に加わった。
怒りとも悲しみとも笑顔とも呼べない顔で俺のほうを見ると頷いてくれた。
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