第三幕その四
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「はい、確かにあれは事故でした」
事実をありのままに述べる。それはボリス自身もよくわかっている筈であったがそれでも彼は問うていた。それが妙にも感じられた。
「あれは確かに皇子であったな」
「皇子はてんかんの発作をお持ちでした」
彼はまた真実を述べた。
「そしてその発作で馬車から落ちられ。そして」
「そうだな」
「血の中に。お気に入りのオモチャを持っておられ。けれど顔は晴れやかでございました」
彼は続ける。
「傷口は大きかったですがその口元には無邪気な微笑みまで」
「てんかんの中でもか」
「死の恍惚だったのでしょう」
シュイスキーはこう述べた。
「だからこそ。笑っておられたかと」
「つまり死んでおるのだな」
その死の光景が瞼に浮かんでくる。それは彼も知っていたのだ。
「はい」
シュイスキーはまた答えた。
「間違いなく」
「わかった」
こくりと頷いた。だが心の狼狽は消えてはいない。
「もうよい。下がれ」
「はい」
シュイスキーを下がらせた。ボリスは一人になると部屋の端に向かった。そしてそこにある椅子に崩れ落ちる様に座り込んだのであった。
「あれは私がやったのではない」
彼は力無く呟いた。
「私は殺したのではない。あれは事故だ」
自分に言い聞かせるようであった。
「それなのに何故。心が痛むのだ」
それがどうしてか、自分でもわからなくなってきていた。ここで時計がなった。
ボリスはその音にハッとした。そして不意に辺りを見回す。
「時計か」
時計から人形が現われる。それは機械仕掛けの子供であった。だがその子供の姿を見てボリスの顔に怯えの色が走った。
「私ではない!」
彼は叫んだ。
「その血は私がやったものではない!そなたは事故で死んだのだ!」
彼は言う。
「そして私が今ここにいるのは民衆の声によってだ!私は本来ならそなたに皇帝になってもらいたかったのだ!いや・・・・・・」
徐々に自分の言葉さえ信じられなくなってきていた。
「殺したのは。私か?オモチャを与えわざとはしゃぐようにして馬車から」
自分で自分の考えがわからなくなってきていた。
「そして皇帝になったのも。総主教の芝居を止めさせなかったのは」
以前の自分の考えと今の自分の考えがわからなくなってきていた。ボリスは次第に自分が皇子を殺し、そして皇帝になったのだと思えてきた。
「いや、違う」
だがそれは必死に否定する。頭を抱える。
「私ではない、ロシアだ」
彼は言う。
「ロシアがそう望んだのだ。だがこのロシアは私のものだ」
それに気付き愕然とする。
「では私が殺したということなのか。そして私は皇帝に」
そう思えてきた。もう自分で何を考えているのか混沌としてきた。
「結果はそう
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