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戦国御伽草子
弐ノ巻
ひろいもの

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「離してよ、離しなさい、発六郎!」



 ばたばたと暴れていると、発六郎が舌打ちすると共にあっさり両腕を押さえられて、そのまま倒された。あたしは身動きがとれなくなってしまった。



「こんなことを言っても信じられないと思うが、俺はもうおまえを殺そうとなんかしない。今まで俺がしたことを許せとは言わない。ただ、話を聞いてくれ!そしたら、そのあとはもうおまえの好きにしてくれて良い。俺の命を(もっ)(あがな)うから」



 あたしは藻掻いた。



「甘えたこと言ってんじゃないわよ!命を以て贖う?命は、命で贖えることなんて絶対に、ない!あたしはあんたとは違う。後悔してるなら、生きなさい!生きて(つぐな)うのよ!」



 目と鼻の先で、発六郎の顔が歪んだ。



「…おまえは、強いな」



 強い?あたしは強くなんてない。



 発六郎に向ける感情も、汚い気持ちも、どうしていいか持て余しているのに!



「俺の名は、村雨発六郎速穂(むらさめはつろくろうはやほ)だ。村雨家の忍だ」



 あたしは息を呑んだ。隠密(おんみつ)が自ら正体を明かすなど、どうかしている。命に関わるというのに。



 それとも、これも罠?



 けれど発六郎の瞳に嘘はない。



 あたしは戸惑いながら口を開いた。



「村雨の、忍がどうして…個人の私怨じゃなくて、村雨家が、前田家をどうにかしようとしているってこと?…まさか」



 喉がからからに渇く。なに、これ。この話、本当だったら途轍(とてつ)もない大事なんじゃ…。



 父上は知っていたの?知っていたけどあたしたちには言っていなかった?それとも知らなかった?わからない。いや、冷静にならなきゃ…まだ本当の話かわからないんだから!



 心を読んだかのように発六郎が続けた。



「おまえは知らないだろうが、そもそもの原因は、前田家の現主だ」



「…父上?」
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