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戦国御伽草子
弐ノ巻
ひろいもの

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んて。あの男を前田家の客人(まろうど)と勘違いして、佐々家の台所番が腕をふるったとしか思えない。赤米や黒米が主流のこの戦国の世において、白米はあたしだって滅多なことじゃ口にできないものなのに。



 あたしはそれを椀に盛ると、薯の(あつもの)香物(こうのもの)も失敬して盆に集め、危うく忘れていた箸も乗せると、男のところへ戻った。



 すっと障子を開けると、中の男が不意を突かれたようにこっちを見た。



「瑠螺蔚…」



 男が苦しげに呻いた。



 あたしはその言葉に反応はせずに、持ってきた盆を男に押しつけた。



 男は戸惑ったように盆をみた。押さえきれない空腹か、のどがごくりと鳴った。



「食べなさいよ。お腹すいてるでしょう。あんたと違って、あたしは倒れてる人を見殺しにしたりなんてしないから。それと、暴れようなんて考えても無駄よ。佐々家にはあんたなんか叶わない腕利きがごろごろいるから。わかったら、大人しく食べなさいよ」



 それでも男は少しの間躊躇(ちゅうちょ)していたが、我慢できなかったのか(むさぼ)るように盆の中身を平らげてしまった。



「…すまない…」



 男は項垂(うなだ)れて言った。



「なんで、あんたあんなとこに倒れていたのよ」



 あたしは盆を受け取りながら言った。



「もしかして…あたしを殺しに来た?」



 男があたしを見る。何でそんなに苦しそうな顔をしているんだろう。無表情の感情の下、ぐつぐつと沸き立つ心とは別のところでふとあたしは思った。



「それなら、殺すと良い。あたしはもう、抵抗はしない。人も呼ばない」



「瑠螺蔚」



「だから、もう、あたしの大事な人を傷つけるのはやめて」



 男が苦しそうに首を振った。



 それがどういう意味かなんて知らないけど、あたしはカッと頭に血が上った。



「だって、ねぇ、兄上も、義母上様も、死んでしまったのだもの。あの火も、あんたがつけたの?もう前田家は燃えてなくなった。命は還ってこない。あたしは沢山のものを失った。あれも、あんたがやったの!?」



「違う!聞いてくれ、瑠螺蔚!」



「嫌よ!何が違うの!聞けって何。あたしを殺そうとしたこと?兄上達を殺したこと?その理由を、あたしに聞けというの!どんな事情があれば、誰かを殺して良いことになるのよ!」



「瑠螺蔚!」



 がっと素早い動きで手首を捕まれた。



 あたしは腕を振り払おうとしたけど、やはり男の方が力が強い。
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