弐ノ巻
ひろいもの
4
[2/3]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
んて。あの男を前田家の客人と勘違いして、佐々家の台所番が腕をふるったとしか思えない。赤米や黒米が主流のこの戦国の世において、白米はあたしだって滅多なことじゃ口にできないものなのに。
あたしはそれを椀に盛ると、薯の羹と香物も失敬して盆に集め、危うく忘れていた箸も乗せると、男のところへ戻った。
すっと障子を開けると、中の男が不意を突かれたようにこっちを見た。
「瑠螺蔚…」
男が苦しげに呻いた。
あたしはその言葉に反応はせずに、持ってきた盆を男に押しつけた。
男は戸惑ったように盆をみた。押さえきれない空腹か、のどがごくりと鳴った。
「食べなさいよ。お腹すいてるでしょう。あんたと違って、あたしは倒れてる人を見殺しにしたりなんてしないから。それと、暴れようなんて考えても無駄よ。佐々家にはあんたなんか叶わない腕利きがごろごろいるから。わかったら、大人しく食べなさいよ」
それでも男は少しの間躊躇していたが、我慢できなかったのか貪るように盆の中身を平らげてしまった。
「…すまない…」
男は項垂れて言った。
「なんで、あんたあんなとこに倒れていたのよ」
あたしは盆を受け取りながら言った。
「もしかして…あたしを殺しに来た?」
男があたしを見る。何でそんなに苦しそうな顔をしているんだろう。無表情の感情の下、ぐつぐつと沸き立つ心とは別のところでふとあたしは思った。
「それなら、殺すと良い。あたしはもう、抵抗はしない。人も呼ばない」
「瑠螺蔚」
「だから、もう、あたしの大事な人を傷つけるのはやめて」
男が苦しそうに首を振った。
それがどういう意味かなんて知らないけど、あたしはカッと頭に血が上った。
「だって、ねぇ、兄上も、義母上様も、死んでしまったのだもの。あの火も、あんたがつけたの?もう前田家は燃えてなくなった。命は還ってこない。あたしは沢山のものを失った。あれも、あんたがやったの!?」
「違う!聞いてくれ、瑠螺蔚!」
「嫌よ!何が違うの!聞けって何。あたしを殺そうとしたこと?兄上達を殺したこと?その理由を、あたしに聞けというの!どんな事情があれば、誰かを殺して良いことになるのよ!」
「瑠螺蔚!」
がっと素早い動きで手首を捕まれた。
あたしは腕を振り払おうとしたけど、やはり男の方が力が強い。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ