第三幕その三
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い、その程度のことでは私は驚かぬ」
彼は穏やかに笑って息子にこう応えた。
「鸚鵡一匹のことなどで。国のことに比べたら」
「左様ですか」
「ところでだ」
「はい」
ボリスは父親の目をして言った。
「今の話はよかった。非常に分かり易かったぞ」
「はい」
「人によくわかる話をしなければ皇帝ではない」
彼は言った。
「それができるかどうかで大きく違ってくる。今のそなたにはそれができた」
「有り難うございます」
「これも学問を常に続けているおかげだ。これからもよく学ぶようにな」
「はい」
「さすればそなたは善き皇帝となれる。そしてロシアをよく治めていくことになるだろう。その時が来るのを楽しみにしているぞ」
そこまで言った時であった。先程の侍従がまた部屋に入って来た。
「陛下」
「来たか」
ボリスの顔が父から皇帝のものになった。
「そなたは下がっておれ」
「はい」
「だが一つ言っておくことがある」
「それは?」
「あの者は信用するな」
今度は皇帝として彼に語っていた。
「シュイスキー公爵をですか?」
「そうだ。唯でさえ大貴族は信用ならないがあの男は特別だ」
イワン雷帝以前よりロシアは大貴族達の専横に悩まされてきた。雷帝の母も最初の皇后も貴族達により毒殺されたと言われている。雷帝の治世は外敵、そしてこの大貴族達との戦いであった。そしてそれはボリスの代でも続いていた。彼もまた貴族達と戦っていたのだ。王や皇帝と貴族達との戦いはロシアにおいては一際熾烈で陰惨なものとなっていたのである。
「知恵ある助言者だが同時に狡猾だ」
「狡猾」
「そうだ。悪知恵の働く男だ。油断するな」
「わかりました」
息子を下がらせた。そしてボリスはシュイスキーと会うのであった。
「陛下、御機嫌麗しゅう」
あの小狡そうな顔の男が入って来た。背は猫背でありそれがさらに狡賢そうに見せていた。だがその目の光は鋭く、そして抜け目なかった。それを見るとこの男が只の狡賢い男ではないことがわかった。
ボリスはその顔を黙って見ていた。だがやがていささかシニカルにこう述べた。
「ようこそ、親愛なる公爵」
彼にしては珍しく皮肉な音色を秘めていた。
「元気そうで何より」
「陛下のおかげでございます」
「昨夜は何処にいたのかな」
先程の侍従からの報告をあてこする。
「宴会に出ていたようだが」
「一人で飲んでおりました」
だがシェイスキーはその言葉がわかっていたかの様にとぼけてみせた。
「最近何かと心配事が多いので」
「それをなくす方法を知っているが」
「それは」
「イワン雷帝みたいにすることだ」
そう言って暗に脅しをかけてきた。
「だが我がゴドゥノフ家は寛容を以ってする。それはない」
「左様ですか」
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