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ボリス=ゴドゥノフ
第三幕その二
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第三幕その二

「蚊は薪を割って水を運び」
「蚊が」
「はい。南京虫は粉を練ってそれで蚊にお弁当を作ります。けれどその途中にトンボがいました」
「どうなるの?」
「そのトンボが飛びまわって南京虫に当たりました。すると南京虫は驚いてそのお弁当を川の中で落としてしまいました」
「蚊は怒ったでしょうね」
「勿論」
 クセーニャの顔が明るくなった。乳母はそれを見て話のリズムをさらによくする。
「怒った蚊は薪を手にトンボを追いかけます。そしてその薪をえいやっと」
 乳母はここで何かを投げる動作をした。
「投げましたけれど当たらない。かえって力んだ蚊がこけて自分のアバラをポッキリと」
「折ってしまったのね」
「そうです。そしてそこに倒れ込みましたがそれを助けに来た南京虫は」
「どうしたの?」
「立たせようとしますが彼も朝からお弁当を作っていて腹ペコで。蚊を支えきれず倒れてしまい結局南京虫もアバラを折ってしまいました」
「痛そうな話ね」
 クセーニャは最後まで聞いてこう述べた。
「アバラをなんて」
「はい」
「けれど変わった話だね」
 一緒に聞いていたフェオードルが言った。
「最初は威勢がよかったのに最後は痛い怪我をするなんて」
「けれど二匹は仲良く入院して怪我をなおして。前より仲良くなったんですよ」
「前より?」
「ええ」
 乳母はクセーニャに対して頷いた。
「最初はお弁当をなくして怪我をして悲しかったんですけれど。それが治ったら前よりもずっと仲良くなったんですよ」
「いいお話ね」
 クセーニャの顔が段々明るくなってきた。
「それじゃあ私も元に戻れるのね」
「勿論ですよ。嫌なことは忘れておしまいなさい」
 優しい声で語り掛ける。
「そして新しい恋を見つけましょう」
「そうね」
「クセーニャ」
 ここでボリスが部屋に入って来た。
「御父様」
「思ったより気分がいいようだな」
「ええ、フェオードルとばあやのおかげで」
 父に対して答えた。
「少し気が楽になりました」
「そうか、それは何よりだ」
 ボリスはそれを聞いて顔を崩した。
「それではそれを完全なものにして欲しい。ばあやよ」
「はい」
「クセーニャをお友達の場所へ連れて行ってやってくれ。そしておしゃべりで暗い気持ちを完全に晴らすのだ。よいな」
「わかりました。それでは姫様」
「はい」
 クセーニャはこうして部屋を後にした。ボリスはそれを見届けると今度はフェオードルに顔を向けた。
「そなたは何をしていたのかな?」
「はい」
 フェオードルはそれを受けてボリスに答えた。それは父と子としてであった。
「我が国を見ておりました」
「ロシアをか」
「はい。この地図で」
 そう言ってテーブルの上に置かれていた巨大な
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