第三幕その二
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地図を指差す。
「ロシアが一体どういった国かを学んでおりました」
「それは非常によいことだ」
ボリスはそれを聞いて頬を緩めさせた。
「雲の上から見下ろす様にロシアのことを知れ」
「はい」
「間も無くこの国がそなたのものになるのだからな。だがな」
だがここでボリスの顔が暗くなった。
「決してそれは楽なことではない」
「はい」
「この国の皇帝になって六年が経った。その間に心は疲れ平穏なぞ一時もなかった」
沈んだ声で語る。
「生も権力も名声も、そして民衆の歓呼も私を楽しませてはくれぬ。家族ですら不幸に覆われている」
これがクセーニャのことであるのは言うまでもない。
「神の断は厳しく、そこには僅かな慰めの光もない。信仰すらも救いにはならないのだ」
「神もですか」
「そうだ。そして外敵がいる。敵は外だけではない」
「それは」
「貴族達だ。あの者達の反乱を忘れたことはない。そして飢饉と疫病もだ」
「ロシアは病んでいるのでしょうか」
「その通りだ」
ボリスはそれを認めた。
「ロシアは病んでおる。その病んだロシアには民衆の獣の様な嘆きが響いている。それはわかるか」
「いえ、それはまだ」
「近いうちに嫌という程知ることになる。そしてその原因は全て私ということになるのだ」
「父上が。何故」
フェオードルにはそれが何故かわからなかった。彼にとってボリスは優しく、頼りになる父であったからだ。
「それもわかるだろう。私の前にいつもいる者が」
「いつもいる者」
「私がやったのではない。時代がそうさせたのだ。だが」
ボリスの声は低くなった。そしてそれが心さえも沈めようとしていた。その時であった。
遠くから先程の乳母の声が聞こえてきた。何かを追い払おうとしている声であった。
「しっしっ!」
「どうしたのだ?」
「見て来ましょうか」
フェオードルが名乗り出てきた。
「うむ、頼む」
ボリスはそれを受けた。そして息子は部屋を後にした。彼と入れ替わりになる形で若い侍従が部屋に入って来た。
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