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失われし記憶、追憶の日々【精霊使いの剣舞編】
第三話「やはり俺はカミトポジションか」
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「チィ!」


 俺はクレアの膝下に手を入れ、俗に言うお姫様抱っこで飛び退く。今まで俺たちが立っていた場所を件のエストがうねりを上げて通過した。


「ふわっ、ちょ、ちょっと! 急になにするのよ! 消し炭にするわよ!」


「その前にひき肉になるな」


 クレアを降ろし、天井を見るように言う。傍らで息を呑む音が聞こえた。


 祠の天井はごっそりと削り取られ、パラパラと破片が落ちてくる。


「あれほどの精霊を解放したのは流石だがあの精霊、暴走しているぞ?」


「う、うるさいわね。これからよ、これから調教するの!」


「……やれやれ」


 やはりこうなったか、と諦めにも近い感情が湧き上がるが、それを押し留める。これも何かの縁だ。もしかしたら俺の運命なのかもしれないな……。


「取りあえず、外に出るぞ」


 クレアの手を引き外に向かって走り出した。エストはすぐには追ってこない。まだ完全には目が覚めていないのだろう。この隙に逃げよう。


 祠の外に出た途端、クレアを抱き寄せて横に跳躍。一瞬前までいた場所をエストが通り過ぎ、轟音をとどろかせながら木々を次々と薙ぎ倒していく。


「やんちゃな奴だなー」


「ちょ、ちょっと、離してよ……っ」


「おっと、すまんすまん」


 身じろぎするクレアを解放する。気まずそうに咳払いをしたクレアは朱い顔を隠しながら不穏な台詞を呟いた。


「反抗的な子ね……じっくり調教してあげるわ」


 スカートのすそを捲り、太腿に巻きつけた革鞭をしならせ、地面に叩きつける。なぜそこに隠しているんだ?


 一瞬だけ見えた白い下着は不可抗力だと叫びたい。


「やるのか? 相手は高位の封印精霊だ。怪我では済まないぞ」


「それでもやるしかないのよ! あたしは絶対にあいつを手に入れるんだから!」


 ――紅き焔の守護者よ、眠らぬ炉の番人よ!


 ――いまこそ血の契約に従い、我が下に馳せ参じ給え!


 詠唱に合わせクレアの契約精霊が姿を現す。紅蓮の炎を逆巻き、辺りを熱気が包み込んだ。


「さあ、狩りの時間よ、スカーレット!」


 クレアが鞭を振るうと、スカーレットは唸りをあげてエストに向かって突進した。


 対して宙に浮かぶエストは森の木々を斬り倒しながら向かってくる。


「スカーレット、狩りなさい!」


 クレアの声に合わせ跳躍する。滑空してくるエストの上空まで跳び上がると燃え盛る爪を振り下ろした。


 激しい火花を散らし、甲高い金属音が木霊する。轟音を轟かせてエストは地面に激突した。そこまでの威力なのか、あれは。
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