序曲
[2]次話
序曲
序曲
ロシアという国は不思議な国である。過去何度も混乱に陥り、そこから何度も大国に返り咲いている。そして恐怖で
全てを支配する君主が現われ、流血と弾圧の帳でロシアを覆う。だがそれはロシアの民衆にはある意味受け入れられている。
そのあまりにも強い土着的なものと西欧的なものが常に衝突している。鮮やかな色の街があるかと思えば雪に覆われた村が側にある。住む人々も素朴で我慢強くがあるが酒を好み、そして時にけだるい。ロシア的なものはロシアを離れればかなり受け入れ難いものともなる。
これは昔からあったものである。ロシアは昔からロシアでありそれ以外の何者でもない。ソ連という国があったがその実態はやはりロシアであった。共産主義は衣に過ぎずその下にある身体はやはりロシアであった。イデオロギーではロシアを変えることはできなかった。ロシアは今もロシアでありこれからもロシアであり続けるのだろう。
そのロシアの昔の話である。ロシアをその恐怖で支配した男がいた。イワン雷帝である。彼は冷酷であり苛烈な人物であった。容赦なく歯向かう大貴族や異民族、時には民衆までも殺戮した。ロシアから血の死臭が消えることはなく全てが闇の中に覆われていたような時代を作り上げたと言われている。だが同時にロシアは東に向かい多くの土地を手に入れた。そうした功績もある人物であった。
彼が自身の息子を杖で殴り殺したショックから立ち上がれずこの世を去るとロシアは混乱に入ろうとしていた。イワン雷帝という絶対的な支配者が去り彼のいたリューリク朝はその存続すら怪しくなってきた。多くの者が権力を求めて争い、そしてまた異民族達がロシアを狙っていた。時代は混乱を受け入れようとしていたのだ。
その中で生きた一人の男がいた。そして民衆が。これはこの暗い時代のロシアの話である。
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