暁 〜小説投稿サイト〜
 
 
[2/3]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初
てな。その時に祝言(しゅうげん)には呼べと言ったのだ。あれは、あながち狂言でもなかったのだが」



 大樹は独り言のように、ぽつりと零した。






















「よかったなぁ!ツミ!」



「よかったよかった!太郎!」




「わーっ!?」



「にぎゃっ!?」



 虚は足元で踊っている妖どもを蹴散らした。



「食人鬼!こらなにをする!」



「大樹の花を持ってきた」



「それにしても我らをよけて通ればよいであろう!」



「そうだそうだ!せっかくの祝い事を…」



 ぶつぶつ言う猫の妖を尻目に虚は公園に足を踏み入れた。



 古ぼけた遊具。奥へと進む。



 一番奥に、木があった。その根元は、花で溢れかえっている。



 見ている間にも、はらりはらりと花が降り積もる。



 その上に、虚は大樹から預かった花を置いた。花は喜ぶように(ほころ)んだ。



「お主とヒベニの祝言を大樹が見たがっていた」



 『彼』はもういない。そんなこと、ここで言っても詮無いことだ。わかってはいたが、虚の口をついて言葉は落ちた。随分、ヒトに毒されてしまったようだ。虚も、ここにくる妖たちも。



 『彼』は長い時間を生きてきた。故に『彼』の事を知らぬ妖はいなかった。



 誰にともなく、ここに花を飾るのが、『彼』への餞別となっていた。ヒトは大切な人が死ぬと、墓を作り花を飾る。



 所詮(しょせん)ヒトの真似ごと。しかし、ヒトと()った妖には相応(ふさわ)しかろう。



 風もないのに花弁は揺れる。歌うように、楽しげに。まるで、『彼』に日紅が寄り添っているかのように。



「馬鹿者が」



 虚は呟く。



 愚かだ。『彼』は自らが消えるのと同時に、日紅と(せい)から『彼』の記憶を消したのだ。妖と関わりすぎてしまった日紅が、もう面倒なことに巻き込まれないよう、ご丁寧に二度と妖を見ることも、声を聞くこともできなくしてしまった。



 そんなことを…あの太陽のような娘が喜ぶとでも思っているのだろうか。



「よかったなー楠美(くすみ)!」



「いやあよかった!よかった!」



 そこかしこで妖が宴会を繰り広げている。公園はいつになく賑やかだ。勿論ヒトの目には映らないが。



 妖は『彼』が消えたことを喜ぶ。死ねない『彼』がただ一人、真名(まな)を明かしてもいいと思える相手に出会ったことにただ喜ぶ。妖とヒトは生きる道が違う
[8]前話 [1] [9] 最後 最初


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ