第一幕その五
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とても考えられないよ」
「大哲学者の無二の親友に敬礼」
マルチェッロは悪戯っぽく敬礼してみせた。
「それじゃあ行くとしよう」
「そうだな」
「ロドルフォ、君も行くんだろう?」
ショナールが声をかけてきた。
「いや、ちょっと待ってくれ」
「どうしたんだい?」
「ビーバー誌の原稿があるから」
当時出ていた雑誌の一つである。今で言うところの文芸誌であろうか。当時のフランスの雑誌は文化の先端をいっているとされていた。多分にフランス人達の自画自賛であるが。
「まだ仕上げていなかったのか」
「筆が乗らなくてね」
マルチェッロに苦笑して答える。
「どうにもね」
「そうか。早く仕上げろよ」
「五分で出来る。その間待っていてくれ」
「わかった、五分な」
「それ以上は待たないぞ」
「ああ」
「それじゃあ下の門番のところで」
コルリーネが待ち合わせ場所を指定してきた。
「遅くなったら呼ぶからな」
「ああ、待っていてくれよ」
「ビーバーの尻尾は短く切るんだぞ」
ショナールが部屋を出る時ふざけて言った。
「いいな」
「階段に気をつけろよ」
マルチェッロが言う。
「暗くなってきているからな」
「えっ、もうか」
見ればその通りであった。夜の世界がパリを急激に覆おうとしていたのであった。
「早いものだ」
「手摺りに捕まろう」
「ああ」
「おっとと」
「おいコルリーネ」
二人が慌てた声を出す。
「うわっ!」
そして転んだのか鈍く、それでいて派手な音が階段から聴こえてきた。
「大丈夫か、コルリーネ」
それを耳にしたロドルフォが扉を開けて尋ねた。
「ああ、何とかな」
階段から落ちて背中をしこたま打っているようだが無事であった。
「無事だ」
「怪我はないか?」
「とりあえず骨折はない」
彼は暗い階段の中で立ち上がりながら答えた。
「ちょっと打っただけだ」
「そうか、不幸中の幸いだったな」
「全く。これから遊びに行くのに縁起が悪いな」
「まあそう言うな」
「気を取り直して行くとしよう」
「ああ」
マルチェッロとショナールの言葉に頷く。そしてアパートを後にする。
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