第四話 聖竜の女剣士
[1/3]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
第五十層主街区『アルゲード』。アインクラッド一ともいえる猥雑さのこの街は、一部のプレイヤーには某電気街の雰囲気に似ているためか、落ち着ける場所として親しまれている。
――もっとも、行ったことはないが。
その方面に住んでいたが、ろくに外出したことのない俺にはなんとも言いようがない。確かに人が多くて混雑していると思うが、そのことに親しみはない。
家が安かったこと、姿を隠しやすいことからこの街を拠点にしていたが、そろそろ人の少ない過疎フロアにでも引っ越してしまおうかと考えていた。
「それにああいうとこって、可愛い子が隠れてることもあるし」
自分で呟いて肩をすくめる。我ながら不純な理由だ。
しかし、三ヶ月ほど前に知り合ったKoB副団長は美しかった。俺のタイプではなかったが。
「まあ、あの子に惚れられてるアイツは羨ましいけどさ」
やはり、好意を抱いてくれる人がいるヤツは幸せだと思う。
独り身さびしー、と呟きつつアルゲードの転移門広場へ向かっていく。この街はかなり道が複雑なので、慣れてないヤツはほぼ確実に迷う。しかし伊達に街開きからここに住んではいないため、迷うことなく転移門広場にたどり着いた。
するとそこに、見知った顔の男がいた。
フルプレートアーマーの大柄なランス使い。『聖竜連合』ディフェンダー隊隊長のシュミットだ。
「あらら、DDA幹部のシュミットさんじゃん」
「ジルか、 ちょうどいいところに――」
俺がいつもの調子で声をかけると、シュミットが焦った様子で駆け寄ってきた。
「お前、カズラを見なかったか?」
「げっ」
思わず声を上げてしまう。
「アイツも来てんの?」
カズラ――アスナと同じくアインクラッドで五指に入る美女プレイヤーで、DDAのダメージディーラー隊隊長だ。彼女とはなんだか相性が悪くて、正直あまり関わりたくない。
「ああ。それで俺が目を話した途端に姿が見えなくなってな……」
「はあ? なにやってんのアイツ」
ため息をついて、俺は来た道を振り返った。当然、今通ったばかりの道にカズラの姿はない。
「……アホらし。帰るわ」
たまには真面目に攻略しようと思えばこれだ。これだからやる気が出ない。
「お、おいジル……!」
「うっさいな。カズラのことだし、心配する意味もねぇって」
仮にも攻略組ギルドの幹部、いかに油断しようにもそう簡単にやられるはずがないだろう。可能性があるとすれば、この広大なアルゲードで迷子になっているくらいか。
俺はシュミットにヒラヒラと手を振って、歩き始める。
シュミットの姿が見えなくなって、転移門広場から完全に離れたあとで、ため息をつく。
あのMMORPG知らずのカズラのことだ、どんな面倒事に巻き込まれているもの
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ