アインクラッド 前編
Determination of black
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んを見殺しにしたんだ!!」
ようやく、キリトは目の前の男が何者なのかを悟った。少しの間を置いて、今度は理解できなかった単語について尋ねる。
「見殺し……?」
キリトと同じく、シミター使いが発した文の意味が解らなかったマサキは、じっとシミター使いの口元に視線を注いだ。
ボス戦とは別種の緊迫感が漂い始めた空間で、唇を限界まで歪めたシミター使いが苦しげに叫んだ。
「そうだろ!! だって……だってアンタは、ボスの使う技を知ってたじゃないか!! アンタが最初からあの情報を伝えてれば、ディアベルさんは死なずに済んだんだ!!」
涙が滲んだその叫びに、周りのレイドパーティーメンバーに動揺が広がる。そして、動揺と疑問が全員にまで浸透したとき、不意に一人のプレイヤーがキリトに走りよった。E隊を構成する一人である彼は、握り拳の中で一本だけ伸ばした人差し指をキリトに向ける。
「オレ……オレ知ってる!! こいつは、元βテスターだ!! だから、ボスの攻撃パターンとか、旨いクエとか狩場とか、全部知ってるんだ!! 知ってて隠してるんだ!!」
その声に、更なる動揺が波のように広がる。それに呼応するようにしてC隊のシミター使いも何かを叫ぼうとするが、一人のメイス使いが手を上げてそれを遮った。そのまま冷静な声で続ける。
「でもさ、昨日配布された攻略本に、ボスの攻撃パターンはβ時代の物だって書いてあっただろ? だとしたら、彼の知識はむしろあの攻略本と一緒なんじゃないのか?」
「それは……」
「あの攻略本が、嘘だったんだ。アルゴとか言う情報屋が、嘘の情報を教えたんだ。あいつも元βテスターなんだから、タダで情報を教えるはずがなかったんだ!!」
押し黙ったE隊プレイヤーの代わりに、シミター使いが叫んだ。
(まったく……)
彼らの論理の、あまりの破綻ぶりに、マサキは心中で大きく首を横に振り、溜息をついた。一体、アルゴが嘘を教えたとして、彼女にどんなメリットがあるのだろう?
《アルゴの攻略本》のように、信頼関係が築けていない相手に対して情報を格安で提供することは、化粧品メーカーが試供品を提供するように、新しい顧客を確保するという点において非常に有効な手段だ。しかし、その情報が偽りだった場合――今回はまさにそうなってしまったわけだが――は、築き上げてきた自身の信用を著しく損なう。そうなれば、客は減り、最悪の場合、彼女は職を失う。信用第一。マーケティングの常識である。
そして、彼女はそれをしっかりと理解していた。その証拠に、マサキが “第一層ボス攻略会議”の情報を買ったときも、彼女は十分な裏を取り、情報の信頼度――即ち、その価値を一定のレベルにまで引き上げた上で提供した。その彼女が、未確認の情報を流布するというのは考え
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