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ラ=ボエーム
第一幕その二
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救われた」
 原稿は瞬く間に燃え上がっていく。そして部屋の中に急激に温もりが拡がっていく。二人はそれを感じながら満足の笑みを浮かべ合った。
「助かったな」
「ああ」
 二人は椅子に座って向かい合った。そして火を眺めていた。何はともあれ部屋は暖かくなった。そしてここで扉が開いた。
「何だ、大詩人と大画伯は御一緒か」
「やあコルリーネ」
「大哲学者のお帰りか」
「ああ」
 コルリーネと呼ばれた男はそれに応えて古い帽子を取って恭しく、そして知的なのを装って挨拶をした。黒いズボンの上にこれまたかなり古い、そして大きな外套を羽織っていた。彼は没落した学者の家の出身であり、生まれはナントであり哲学を学ぶ為にパリに出て来た。そこでロドルフォと知り合い今に至る。自称大哲学者である。貧しいながら手入れされた髪に如何にもといった感じの気難しそうな顔が印象的であった。
「少し散策をしていたがね。帰って来たよ」
「そして何か閃いたかい?」
「まさか。それどころか人にあてられたよ」
 苦笑いしてこう返す。
「今の時期は。哲学には向かないね」
「そうなのか」
「だって今はクリスマスだぜ」
 そしてこう言った。
「クリスマス」
 二人はその言葉に反応した。
「あれっ、知らなかったのかい?」
「そういえば」
 二人はそれを聞いてようやく思い出した。
「今日はクリスマスか」
「もうそんな季節になっていたのか」
「気付かなかったのかい」
「ずっと大作に取り掛かっていたからね」 
 マルチェッロは言った。
「モーゼを描いていて」
「僕も。何かと書いていてね」
「お互い暇なしってわけか」
「先生の方もその筈だけれど?」
「僕は今はそれ程じゃないよ」
 外套を脱ぎながら言った。
「また色々と忙しくなるだろうけれどね。閃きがあれば」
「流石は哲学者」
「未来を変えられるか」
「そういえば一つ奇妙な話を聞いたよ」
「奇妙な?」
「ああ。今は何はともあれブルボン朝の時代じゃない」
 それは否定された。少なくとも。

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